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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「江ノ島西浦写真館」三上延(光文社)

「ビブリア古書堂」の作者による、江ノ島を舞台にした小説。ビブリオが古本から身近な謎解きをしていくのに対し、こちらは古い写真を手がかりに謎を解いていくノスタルジックなミステリーという同系列の作品でした。登場人物のキャラクター配置も似た感じです。でも、内陸の鎌倉(大船)と海上の江ノ島、古書と写真、男主人公と女主人公、という違いのせいか、閉鎖的な重苦しさは少し薄く読みやすい感がありました。

江ノ島は私にとって地元ですので、子供の頃から何度も訪れていますが、橋を渡って仲見世を通って階段上って、神社や植物園に立ち寄って、階段下りて稚児ヶ淵まで行って、また戻ってくるだけですので(それでかなり疲れます)、そこからはずれた路地裏や、ヨットハーバーの方などには行ったことがなかったと気付きました。

気付いたからには行ってみなくては、と。物語の舞台である廃写真館があるのは路地裏となっていますので、地図を見てみれば、確かに行ったことのない場所があります。都心に近いながら橋1本で相模湾に浮かぶ孤島、世の中から隠れ住むには良い場所なのだと思います。隠されたものを暴き出すという話にうってつけでした。

ヒロインは少し性格に難のある20台の娘さんで、読みながら特に愛おしさを感じることもなかったですが、写真家の観察眼で物事を明らかにしていく様は魅力的でした。そういえば、あまり魅力的な登場人物はいなかったような…ビブリオの栞子さんのお母さんのように、写真館のお祖母さんもなんか嫌な感じでしたし…それでも面白かったのは、純粋にストーリーの力でしょう。
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「音楽の在りて」萩尾望都(イースト・プレス)

萩尾先生も最近は小説を書かれるのか、と思ったら70年代後半に奇想天外などに発表された作品集でした。70年代後半から80年代、24年組と呼ばれる作家たちが高い評価を得てなおも続々と意欲作を描き、その次の世代の作家たちがさらに独創的な世界を広げていた、まさに少女マンガ全盛期です。私もずいぶんと読みまくった頃です。

萩尾望都年代記でいえば、「トーマ」や「ポー」といった耽美な世界から、「レッドアイ」「銀の三角」などのSF作品が多くなっていた頃と思われますが、まさにそんな若々しいアイデアと感性にあふれた、SF中心の小説集でした。短編が11作と長編が1作、短編漫画が1作収録されています。作者による[あとがき]があると、もっと良かったのですが。

物語が面白いのは当然として、文章も瑞々しく萩尾望都の絵柄で情景が思い浮かびます。漫画はデフォルメしていく表現、小説は書き重ねていく表現だと私は考えていますが、その違いを効果的に使いながら、漫画と同レベルの作品に完成しているところが素晴らしく…やはり、萩尾望都は手塚治虫を最初に追い越した天才漫画家だとの自説を強くしました。

最後の長編「美しき神の伝え」がどうしても印象に強く残ります。人間の自我と宗教と哲学の本質を見つめた、深大な作品。美しく純粋で、哀しく残酷な物語でした。ほかの作品もそれぞれ個性的で面白いものばかりでしたが、この1作は、作者ならではの世界観にあふれていたと思うのでした。

「残酷な神が支配する」の初期で挫折して以来、もうずいぶんと新作漫画を読んでいませんが、いまだに創作意欲の衰えない萩尾先生の作品に再び接する好機と思っています。
2016.8.14 新高円寺スタジオSKホール

チェロ・森田満留&ピアノ・森田竜一の夫妻、ドイツからの来日コンサートを、2年前に続き同会場で聴いてきました。私の妹とその息子たちがデュッセルドルフに行っていた時、ピアノやバイオリンのレッスンを受けていた音楽家さんです。

今回はピアソラ、プロコフィエフ、ブラームスというプログラム。フラットな空間でチェロから2メートルほどの最前列を取り、音も、演奏テクニックも目の前で刻みつけることができました。チェロという楽器の奥深さが直に身に染みてきて、いつかは奏してみたいとの憧れがさらに強まります。

ピアソラの「3つの小品」「アディオス・ノニーノ(ピアノソロ)」はスタイリッシュなタンゴという感じではなく、南米の泥臭さが感じられる魂に響く曲。プロコフィエフの「チェロとピアノのためのバラード」は私の大好きなロシアらしい重厚さと情熱が伝わってくる曲。ブラームスの「ソナタ78・雨の歌」は西欧クラシックの端正で情緒深く美しい曲です。アンコールはピアソラの「リベルタンゴ」を情感豊かに弾ききる迫力の演奏。

どの曲も、このデュオならではの個性にあふれていて、すばらしい音楽が小さな会場空間を完全に支配する、ステキな時間を味わわせてくれました。
「ドファララ門」山下洋輔(晶文社)

ジャズピアニスト山下洋輔の父方の祖父の足跡をたどった「ドバラダ門」を読んだのは、もう20年以上前のことだったでしょうか。山下さんのエッセイは即興演奏的に面白くてよく読むのですが、長編小説もさらに面白いと思ったものでした。本作は、そんな洋輔さんの母方の系譜をたどった内容で、前作(読んだときの記憶も曖昧ですが)よりは小説っぽくない印象なれど、多岐多彩なプレイヤーが登場する大セッションという楽しさがありました。

洋輔氏はラジカルな演奏をする割に、品の良い紳士という雰囲気の人ですが、なるほど、名家のお坊ちゃまだったのだと納得させられました。ジャズマンとしては(特にフリージャズでは)、そうしたイメージがプラスにはならないと思うのですけれど、最前線で走り続けて七十を越えた今だから気にせず書けたことなのでしょう。そして、私も両親を亡くした今だから思うこと、自分のルーツである「家」のことをもっと聞いておけば良かったと、そんな想いが本作執筆の動機にもあったのではないかと思うのでした。

いろいろな分野で、特に芸術方面で才気あふれる人たちを親戚に持つ洋輔氏の血筋とともに、ジャズマンとしての自伝でもあり、聴き知っているミュージシャンたちがたくさん登場するのも、エッセイに書かれるのとは違って一段と面白く。起承転結の脈絡あるストーリーではなくいろんな方向にとっちらかっていても、人生とか旅とかって、そんなものでありましょう。

意外であったのは、洋輔氏はクラシックピアノを習っていなかったということです。音大出ということもあり、あの色彩感豊かな音はクラシック音楽の素養の上に成り立っているのだろうと勝手に思っていたので、衝撃的でした。世界もジャンルも超えて活躍するピアノ弾きになったのは、血とともに受け継がれてきた才能なのか、子どもの頃から好きだったからなのか…なんでも面白がる需要力と自由に文章も書いてしまう創造力、そんな人間性もあってこそと思わされました。
「朱の記憶 亀倉雄策伝」馬場マコト(日経BP社)

戦争と広告3部作に続く、馬場さんの業界人評伝小説。タイトルの「朱」とは、1964年東京オリンピックのエンブレムのこと、それをデザインした亀倉氏の生涯が描かれています。何年か掛かりの労作と思いますが、次の東京オリンピックマークの模倣騒動などがあったタイミングでの上梓は、思ってもないことだったでしょう。

それについては、後書きで触れられています。100人以上もの活躍しているデザイナーが参加したコンペで選ばれたのが、あの作品しかなかったこと、それはそもそも、2020年東京オリンピックを開催する核心が空洞で、誘致した国に戦略も想いもないから、創造的なデザインなどしようがないのだと。まさに、馬場さんならではの辛辣な想いでありました。

その馬場さんとは、何度かマンション広告の仕事を一緒にさせてもらったことがあります。コピーライターとして広告に携わりながらも、この業界のクリエイターにほとんど興味のない私にとっては、唯一といって尊敬している先輩なのです。

亀倉氏のことも、本作を読むことであのマークもこのポスターもあの商品も、みんなこの人がデザインしたのかと初めて知ったのでした。業界人に興味ないといいながら、やはり同じ世界で仕事をしている私にとって、天才クリエイターの仕事ぶりが描かれた物語は、非常に面白くて刺激を受けるものでありました。

戦前にデザイナーを志し、戦中には軍の仕事をしながら実力を身につけ、戦後は第一人者として活躍し、オリンピックや万博のエンブレムを残し、デザイナーの組織を作り、リクルート事件では経営陣として再建に関わり、生涯現役のまま82歳で亡くなるまでの、波瀾万丈な人物伝です。

それは同時に、今は社会経済、情報技術、企業のあり方も変化し、広告に求められることも厳しくなっている時代ですが、デザインが世の中をリードすることもできるという、いつもながら馬場さんならではの、後輩クリエイターたちへのメッセージと受け取りました。
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長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。よろしくお願いします!
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