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「本の魔法」司修(白水社)を読む
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司修の作品に出会ったのは、まだ子どもの頃でした。妹が購読していた「詩とメルヘン」に載っていた絵本作品「魔女の森」を妹が気に入り、個展があると知ったときには母に連れて行ってもらったことがあります。
絵本も子供用ではありませんでしたが、個展の絵はかなりエロチックな作品でした。でも、幻想的で思索的な絵画はいやらしく感じることもなく、純粋な芸術として心の奥に焼き付いています。
それから10数年経って、司氏の小説が刊行されたことを知ります。以来、多くの作品を読んできました。画家の書く文章という特異さはたしかに感じられますが、けれど数々の著名な文学賞も受賞しているように、文筆家としても本物の人なのです。

さて、本作は画家であり作家でもある司修が、装幀家として様々な作家と交遊してきた回顧文集というべきもの。淡々と思い出を綴っているのに、亡き友や師への想いの強さから、実に胸を打つ作品となっています。
そのほとんどの作家を、名前は知っていても読んでこなかった自分の読書歴の浅さを思い知らされながらも、古き小説家たちの世間から外れた個性が面白く、表現を模索する姿が興味深く、人の一生の中で激変する時代の性急さには恐ろしささえ感じさせられました。
そして全編を通して読めば、司修という人物の私小説として、画壇よりも文壇でかわいがられた彼の不思議な魅力が浮き出ているのです。それは、芸術家の魂、生き方。

表紙に、氏が装幀した本の表紙が並んでいるという親切で刺激的な装幀の本ですが、いかに作品と真摯に向き合った末に、本の顔ができるかという
クリエイターとしても興味深い内容でした。表紙は書店で本を選ぶときの大きな基準ですから、装幀がいかに大切かはわかります。
でも、デザイナーが自分の技量の範疇でうまくやってるのだろう、などと思ってしまうのですが…それが間違いだともわかってはいるのです、作品を知らないとデザインはできません。けれど、いまどき、これほどに作家と深くつき合いながら仕事することはないだろうな、と。
それは、時代なのでしょう。作家、編集者、装幀家、それぞれの地位が高かった時代のものづくりであったと。今は、みんな地位が低くなってしまい、互いの敬意が失われてきたように思われます。表紙に並んだ表紙を一覧して思うのは、作品の世界を深く表現しているのだろうこと、でも、いまの出版市場では手にとってもらいにくいだろうこと…それも、時代ですね。

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IMGP4319.jpg「ROLLY & 谷山浩子 からくり人形楽団 The First Live」
2013年3月20日 横浜Blitz

前年に発売された谷山浩子とローリーのアルバムはとても刺激的な世界に仕上がっていたので、このコンサートのことを知ったときには迷わず行くことに決めました。谷山さんのコンサートは数え切れないほど聴いてきましたが、今回は新たな期待感も大きく楽しみにしていたものです。

場所もはじめて行く大きなライヴハウス、黒っぽい空間がホールとはまた違う雰囲気で昂まります。インターネットでの予約注文を逃していた40周年記念百科も販売スペースで買うことができ、座席へと。
前座として吉澤嘉代子さんが3曲歌いました。面白い女の子、面白い歌、歌唱力が高くて、たった10分程度でしたがしっかり存在感を植え付けていきました。谷山さんの前振りとしても個性的で良いアーティストだと思います。まだCDも出ていないようですが、ぜひ頑張ってください。
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さて、からくり人形楽団の登場です。谷山さんはヘッドアクセサリーを着けたドレス風、ローリーさんは黒のシルクハットにラテンのおじさん風メイクと、これはCDジャケットの写真で見た格好。音楽の世界観と見事にマッチしていてステキでした。ただ、トークの内容とはミスマッチ、そのギャップがまた面白さを倍加させていて、予想外の効果だったように思えます。
ステージは、二人の軽妙な…微妙にかみあわない感じが楽しい…をたっぷりとはさみながら、アルバムになかった曲も多く全21曲を演奏。これまでに何度も聴いてきた曲でも、アレンジが違えば新鮮であり、しっかり聴き応えのある内容となりました。

ただひとつ、難がありました。谷山さんが風邪を引いていて、ときどき声が出なくなるところが。以前のコンサートでもありましたが、残念でした。プロとしての体調管理が…などと責める気はまったくありません、鍛え抜いた挌闘家がタイトルマッチの前日に風邪で高熱を出してしまうということもよくあるはなしで仕方がない、ただ本調子ならもっとステキだったのにと思ってしまうのは、なけなしのお金でチケットを買った者の心境。そこはしっかりわかっている谷山さん、最後にお詫びしていましたが、その分ピアノなど歌以外のところでのパフォーマンスは素晴らしかったです。

それよりなにより、ローリーさんです。過去にも谷山さんと他のアーティストとのコラボライヴや、ゲストとして呼んだ方との演奏など聴いてきましたが、今回はそれらとはまったく違います。「からくり人形楽団」というバンドなのです。
ローリーは、谷山浩子の世界に深く入り込み、自分の解釈をもってギターと歌(と顔)で新しい世界観へと変え、これまで聴いてきた曲の別の面を描き出して見せ、谷山さんを引き立てながらも同じだけ自分の存在感も主張する、という偉業を成し遂げていました。テレビのバラエティ番組などで見かける時にはイロモノ的なタレントのローリーが、これほど真剣にアーティストとしてのパフォーマンスを発揮してくれたことは、大きな悦びです。

ファーストライヴと銘打たれていたこと、ローリーの意欲も盛んなことから、ぜひ今後も続けてさらなる進化を聴かせてほしいと思いました。ローリーとの出会いが、谷山浩子の音楽や文章といった世界にも化学変化を与えると面白いなと思います。とはいっても底なしの浩子さん、他人によってそう簡単に変わりそうにはありませんが。
メンバーはエレキベースとチェロの佐藤研二さん、ドラムの高橋ロジャー和久さん、キーボードの石井AQさんでした。仁王立ちして弾くベースは堂々としていて、ソロパートで叩きまくるドラムは熱く、いつもの谷山浩子コンサートとは違う雰囲気を楽しませてもらいました。
からくり人形楽団、めざせ、武道館。

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51S2kZBz6jL._SL500_AA300_.jpg「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」
 三上延(メディアワークス文庫)

巻が進むごとに、だんだん1つのエピソードが長くなってきたと感じていましたが、4巻めは1冊で1エピソード。構成の面白さも本への想いの深さも増して、読み応えがあります。

そういえば、子どもの頃から乱歩の作品を読んだ覚えがありません。「押し絵と旅する男」のはなしを読んで思ったのは、アニメで観た「魍魎の匣」の電車の中のシーンくらいで、これは乱歩好きな京極作品が原作でした。
乱歩的な世界と現実がクロスして、今までなかったほどミステリー色も強くなっていて、別にそれはどうでもいい私にしても謎解きやトリックに惹かれました。そこにはロマンがあります。おお、ロマンよ〜と言うのは猟奇王(川崎ゆきおのマンガ)の口癖で、彼もまたルーツは乱歩なのですが…まぁ、好きな世界なのではあります。栞子の母こそが、二十面相的な怪人の雰囲気をまとっていて、この巻での大きな展開とよくマッチしていました。

もちろん、舞台もかわらず私の地元、雪の下に大鋸に、と知った街ですので、また歩きに行きたくなるのでした。雪の下はまだ古いお屋敷もたくさんありそうですが、大鋸の古い洋館といえば、数年前に焼失してしまった旧モーガン邸がモデルでしょうか。
本作の刊行がはじまってからのたった数年でも、栞子さんがよく立ち寄っていた大船駅前の本屋がコンビニに変わり、大輔くんがお見舞いを買っていったレーズンウィッチの洋菓子店も閉まり、と街の風景は変化しています。
鎌倉の風致地区にもマンションが建ち、大船駅前にも24階建ての超高層複合マンションの計画があるなど(あまりにもこの街にそぐわない…)、街の歴史や文化、景観を守ろうというような意志は、主に経済主義の前では軽いものでしかないようです。
いま、ビブリアがこれほど多くの人に愛されているのは、そんな時代への郷愁もあるのかなと思っています。電子書籍時代の紙の書籍、大船〜北鎌倉〜鎌倉の歴史の中で生活感にじむ風景、その中での慎ましやかな恋、などが相まって、本作の味わいになっていると思うのでした。

前巻を読んだ時から、次巻では震災が起こるだろうしどんなことになるのかと思っていたら、いきなり震災後になっていました。大地震後に古書が動くというのは、よくわかるような感じです。そして、やはりいきなりな栞子母さん登場というのは、いよいよ物語が本題に入ったと身構えさせられる上手い構成でした。
これまで、また聴きの断片情報でしかなかった母が、予想以上に本にとりつかれた破綻者のようで、そうして比べることによって栞子さんもやはり、ただおとなしく可憐なお嬢様などではなく、異端者なのだと認識させられます。意地になって母と張り合おうとする姿は、今後の展開に不安を感じる一面でした。
そんななかで、大輔との進展もありましたが、なぜかあまり感情移入して祝福したい気にはなれず。この関係は、あまり微笑ましいものではないように思えます。それだけに、この二人のつき合い方を作者がどんなふうに書いていくのか、興味深く見守りたいと思うのでした。

さて、配役とイメージ写真を見た時点でまったく視聴する気を失ったテレビドラマ、ただ地元・大船の風景が映されているのかだけが興味あるところでしたが、聞けばほとんどスタジオセット、鎌倉の風景が少しくらいだそうで。ビブリア聖地巡礼のブログ記事を書きかけてましたが、ドラマで踏まえられてたならいいかと思ってたのですが、やはり書き上げたいと思います。

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CHOPIN.jpg「いつまでもショパン」中山七里(宝島社)

ドビュッシー、ラフマニノフに続いて、著者の音楽ミステリーシリーズも、3作目となりました。ラフマニノフは主人公がバイオリニストでも、メインの曲はピアノコンチェルトでしたから、一貫してピアノ曲がモチーフになっています。そして今回はショパン、しかも舞台はショパンコンクールとくれば、もうピアノ描写しかありません。そして、いつもながらに音楽を言葉で表現するのが本当に上手な作家なので、終始頭の中にショパンの曲が鳴り響いていました…。

といいつつ、ショパンはある程度聴いていても、エチュードの何番、ワルツの何番、マズルカの何番…と言われて、あの曲だと思い描けるほどには覚えていないのが残念でした。全曲を頭の中で奏でられるのは、協奏曲1番とノクターンくらいなもので…その2曲がクライマックスに来ていたのは幸いでしたが、もう一度曲を把握した上で、ぜひ読み返したいと思っています。誰のピアノで聴くかが、かなり悩ましいかもしれませんが…うちのレコードで弾いているのは誰だっただろう?Youtubeで今は亡き巨匠たちの演奏すら見ながら聴くこともできる世ですので、聞き比べも楽しそうです。

音楽小説として読んでいるため、ミステリー成分については正直なところどうでもいいのですが、最後にわかった事件の犯人は意外でした。いろいろとミスリードさせるような複線も張られているので。事件自体が国家レベルのテロと大きく凄惨な描写もあったため、これまでの2作とはかなり趣も異なって、さらには戦場のファンタジーにさえなっていたのは、ちょっといきすぎな感もありましたが、音楽の力、というものを表現するにはたいへん面白かったと思います。

ショパンコンクールが舞台ということで、マンガ「ピアノの森」ともろにイメージがかぶります。各国コンテスタントたちのキャラクター付け、特に主人公のポーランド人少年。また、シチュエーションとして森の中での出会いや音楽学校の練習室のシーンなど。そのため、曲を文で表現することと、絵で表現することの違いがとてもよく浮かび上がっていたのも、興味深かったところです。

そして、辻井伸行をモデルにした日本人少年、彼の演奏への評価も面白く、いろいろと発見させられました。あまりにも実在の特定人物なので最初は戸惑いましたが、同じ曲でも演奏家によってピアニズムが異なり、まったく違う印象になるということを明確に示すことができたので、良かったかと思います。テレビで観たことしかないので、逆にCDで彼の奏でる音だけをじっくりと聴いてみたいと思いました。

3部作で終わりかもしれないと思わせるように、前2作の主人公たちも顔見せしていましたが、岬先生無双ぶりの痛快さは、これからも見たいものです。アクの強い音楽家たちの中で、ひとり優しく厳しく論理的に振る舞う彼の姿は爽やかです…が、実はそれが計算ずくであるという節も窺われるので、なかなかにくせ者。この巻でも主人公は岬ではありませんが、最後には彼の物語で締めてほしいと。

最後になりましたが、主人公であるポーランドの少年ピアニストが、様々な葛藤やしがらみを乗り越えて、最後に自分の音楽表現にいきつく、その中での心の成長ぶり(性格改善も)など、物語の王道路線の中で感動的に描かれていたと思います。その意味では、ミステリー要素が最後の感動に水を差してしまったともいえるのですが…青春小説というわけでもないので、良いのでしょう。一つの枠に収まらない多様な面白さを持つ作品でした。

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SENRIDEN.jpg「千里伝 乾坤の児」仁木英之(講談社)

最終巻…作者自らあとがきに記していたように、仁木作品は多く読んできましたが長編の完結はこれがはじめて。1冊ずつが厚く、また展開が大きくて密度も濃かったので、全4巻でも長編が終わったという満足感が大きな物語でした。デビュー作として未だに巻を重ねている「僕僕先生」シリーズも、きっとこんなふうに心に残る終わり方を迎えるだろうと、十分に期待させてくれます。

最初はまったくもってひどい性格の主人公・千里でしたが、多くの人(人外の者たちも含め)との激しい交流の中で立派に…とまではいかないけれども格段に成長した姿をみせてくれました。そんな千里が最後に求めた世界の在り様、というのがしっかりと納得できたのが、読後感の良さにつながっています。けっこう難しい着地点だったと思われるのですが、物語の積層の重みが生きていました。
キャラが立っているという仁木小説の魅力的な特徴がうまく発揮され、バソンも絶海も、空翼も麻姑も羽眠も、ほかたくさんの敵味方あわせた登場人物たちの想いが深く心にしみてきました。
ラスボスとの闘いが意外にあっけなかったけれど、敵を倒すカタルシスがテーマではなく、長い歴史に培われた中華的な創世期からの世界観の中における人々の生きざまがテーマですので、敵もまたその世界の一部として描かれたのは良かったかと思います。

強さを求める者たちの闘い、その中で生まれる友情、せつなくほのかな恋情、というような冒険活劇の体をとってはいても、人間の幸福を深いところで探っていこうとする仁木英之の思索が結ばれた作品だったと評価するところです。
やはり、こうした物語を描くには日本を舞台にするのでは小さすぎ、中国という、国の広さだけでなく古代から現在につながる歴史と思想の深淵さを含めたスケールの大きさがあってこそと思わされます。
そこから、小さくて世界の片隅にある存在である日本の真の姿に気づけば、逆に、結晶化されたような日本文化独自の美しさや価値観を再発見できるのです。

ところで、ちぇこ氏の描いた扉絵イラストがとても良かったと思います。章の前でなく後に挿れられているので、事前にネタバレすることなく自分のイメージで読んできた彼らの活躍を確認して納得できるという。それが、キャラクターのイメージだけでなく、背景の世界や装束、武具などもしっかり描かれていたので、違和感なく、さらに想像力をふくらませてもらえました。なかなか、ここまでのマッチングはないかと思います。
最後の最後の絵の笑顔が、感慨深く心に刺さりました。装丁も含め、本作りとしても、秀逸な作品だったと思います。

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