忍者ブログ
つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
[23]  [24]  [25]  [26]  [27]  [28]  [29]  [30]  [31]  [32]  [33
「RDG6-レッドデータガール--星降る夜に願うこと」荻原規子
(カドカワ銀のさじシリーズ)

一人の少女の2年間の成長を描くには長かった物語も、いよいよ最終巻となりました。前の巻で大体の決着を見ていたので、本巻でも事件はありますが心の動きが中心となり、主人公・泉水子の成長ぶりがしっかり描かれていました。深雪もしかり。いろいろと謎だった背景も明かされて、十分な終章だったと思いました。

陰陽師サイドの不気味だった敵側人物たちも、人間らしい部分が描かれれば魅力的で、みんな仲良くの展開がほっとします。なんだかんだで、高柳が一番おもしろいキャラだったような。
実のところ、泉水子はちょっと愛しきれないヒロインでした。古風なようでいて、やけに浮ついているところがバランス悪く感じられたせいでしょう。それが珍しく、貴重な作品になっていたとも言えます。ルームメイトの真響も自己中すぎてイマイチ、そうなってくると、やはり真ヒロインは姫神だったということで、終盤の出番のなさが物足りなく感じられます。RDGはこれで終わりですので、姫神の物語が読みたいと思ったり。

本作はなにより、日本の歴史・風俗・宗教観といったことが、保守的にならず描かれたのが興味深いところでした。たぶん作者の中ではもっともっと世界が広がっているのでしょうが、作品としてはその一部が出たにすぎないように感じられます。結局、人間の世界遺産とはなにか、もう少し踏み込んで表現してもらいたかったかも。
どうも、この作品は毎々楽しみに読んだ割には、感想を書き難いのが、自分でも不思議です。

さて、読む前に驚いたのが帯にあったテレビアニメ化の告知。悪い予感は、作者の「西の善き魔女」アニメ化がちょっと…だったからですが、今回はスタッフも良さそうで期待です。
昔だったら、好きなマンガや小説のアニメ化はイメージとの乖離が大きくて歓迎しなかったのですが…今のアニメは声優さんが上手いし、演出や構成は凝っているし、作画も大きく崩れることなく、原作の魅力が出せるのかは難易度高そうな気はしますが、こちらはこちらで楽しめる作品になれば良いと思います。

拍手[0回]

PR
「友達からお願いします」清水マリコ(MF文庫J)61PZiamQmJL._SL500_AA300_.jpg

その昔、清水マリコが主宰していた劇団「少女童話」の旗揚げ公演でファンになり、芝居と映画とを何作か観に行った私。彼女が小説を書いていると知ったのはここ数年のことですが、アダルトゲーム原作の作品以外はだいたい読んできましたので、久しぶりの作者オリジナル作品は嬉しいところです。

ゲームやアニメのノベライズも手がける作者のこと、現代風の萌えツボはしっかり押さえているのですが、キャラクターが記号化されきってないというか、少年少女たちの思春期の感情がかなり生っぽく発露されるので、ライトノベルというよりは、少女漫画的というべきでしょうか。そこに気恥ずかしさを感じながらも、しっかりした読み応えがあると思います。
エキセントリックな美少女ヒロインと、目立たない系の男子の、日常を描きながらもどこか幻想的な不穏さをはらんだストーリー展開というパターンがありますが、本作は日常性を前面に出した話で、ヒロインも変わり者だけれどそんなにミステリアスではない、いつもより平凡な話のように思えます。けれど、描かれるできごとに起こり得るリアリティが強い分、素直に読者の感情を揺すってくるので、地味とか薄いとかいう感じではありませんでした。最後の真犯人はミスリードされて意表つかれましたが、良い意味で。

なにはともあれ、こうした作品はヒロインの魅力に掛かってくるわけですが…。キャラクターを立てていくと、ある種の人格障害のレベルにまでなってくる、そのギリギリの辺りで線をどこに引くのかが重要な気がします。メインヒロインの田中も、サブヒロインの水森や江川も、ちょっと一線を超えたところくらい。
田中がなぜにこうも自虐的なのかは、過去が描かれていないので性格的な欠陥としか見ることができませんが、残念さの中に見せるかわいらしさが強い印象を残してくれました。他の二人も然り、主人公の楓少年はちょっと情けないけれど…続編があるようですので、彼女たちの濃いキャラを発揮する急展開に期待したいと思います。

最後に、ライトノベルの特徴である挿し絵ですが、熊虎たつみの描く絵はちょっとエロすぎな感じが…。直接的に裸など描いているわけではありませんが、小説読まないで挿し絵だけ見ていったら、ぜんぜん違う中身を想像してしまうように狙っているのでしょう。
まぁ、思春期男子の主人公ファクターで描いたイラストとして、小説の内容から逸脱はしてないとも思いますが、これまでよく組んでいたTOI-8の絵と比べてしまって。でも学園青春ちょい痛ラブコメとしては正解なのでしょう、ラノベ戦略の面白さを感じました。


拍手[0回]

舞踏公演、笠井叡×麿赤兒「ハヤサスラヒメ(速佐須良姫)」を見てきました。(2012年12月2日、世田谷パブリックシアター)

ともに1943年生まれ、舞踏の牽引者として50年のキャリアを持つ2人にして初の共演となるステージ、という新聞の紹介記事を見てしまえば、いわゆる暗黒舞踏大好きの私としては行くしかありません。麿の率いる大駱駝艦は若い頃に何度か観ていましたが、天使館を率いる笠井の踊りはまったくはじめてであり、年齢的にもいま観ておかないと、と思ったこともあります。

場所は世田谷パブリックシアター、前売りチケットは残り少なかったので2階席の端の方となりました。そのおかげで、このはじめて入ったモダンで個性的な劇場を楽しむことができ、舞台全体を俯瞰して観れたのでなかなかでした。半円形のステージをぐるっと取り囲む配置から、かつて湘南台文化センターで観た田中眠の「春の祭典」や大野一雄の「照手姫」を思い出して、はじまる前から舞踏モードに入れたのも良かったです。昔はよく見に行った舞踏ですが、しかし今回は何年ぶりか…

自分のことはそのへんにしておいて、ステージの感想です。
これは、見に行って良かったと心から思いました。久々の舞踏ということもありますが、この刺激、死生感、肉体の可能性、そして晴れやかさ。命あることの悦びを、ベートーヴェンの第九に乗せて表現しきっていて、素晴らしい感動を与えてくれました。

齢のことに触れずともいいのでしょうが、やはりどうしても、70歳近い二人のエネルギッシュで表現力にあふれた踊りには、深く魅せられました。それも5日間の公演の最終日にして…。特に笠井叡の跳躍や柔軟さ、そして踊り続けても息を乱さないスタミナは、若い頃からの鍛錬のたまものなのでしょう、驚嘆するばかりです。怪優としてテレビでも怖い顔を見せる麿赤兒の、愛らしいドレスやチュチュ姿もある意味驚愕でしたが。こんなに踊る麿さんもはじめて見た感じです。

その二人だけでなく、白塗り坊主の大駱駝艦の4人と、肌色金髪の天使館4人、一括りに舞踏といっても異なるメソッドにあるのだろうと思われますが、絶妙にクロスオーバーさせていく振り付けもあり、四人四人、一人一人の存在感を際だたせていました。白塗りで転がるたびに、舞台上が白くなっていって、まるで大理石の模様のように見えていったのも、演出の狙いではないでしょうが2階席から見ての面白さでした。
そして20人以上の女性群舞、天使館で教えているオイリュトミーという運動芸術らしいですが、ステージを清楚ながら盛り上げていて、明るい祝福のイメージを醸し、舞踏なのに清々しい印象を残したことは成功だったと思います。

舞踏のエポックメイキングな作品とまで言えるかどうかは専門家でないのでわかりませんが、私としてはそのくらい鮮烈に感じた舞台でありました。笠井叡、今日見た感じでは大野一雄のように90すぎても踊れそうなので、ぜひまた見に行きたいと機会を伺うことにいたします。

笠井叡
大駱駝艦

拍手[0回]

「従軍歌謡慰問団」馬場マコト(白水社)の感想です。51UUX-VFlAL.jpg

最近は仕事をご一緒する機会がなく残念なのですが、馬場マコトさんから刊行お知らせのメールが届くのはありがたいことであります。いち早く読むことができました。
戦前〜戦中の業界を描いた3部作の締めとなる本書は、広告・出版界を舞台にした前2作、広告業界を舞台にした「戦争と広告」、出版界を描いた「花森安治の青春」に比べ、芸能界のはなしなので一般の人にもわかりやすいかと、そして一貫している反戦のメッセージ性も、より強いものになっていたと思います。
前2作の積み重ねがあっての本作となりますが、その労はかなりのものであったと推察されます。あとがきにもありましたが、資料に当たるだけでなく実際に日本軍が侵攻した中国本土や南方の島々まで旅しての著作は、作業の困難さだけでなく思い入れも強くなるでしょう、情景の情動のリアリティを感じさせてくれます。

戦時の音楽というテーマ以前に、レコード業界や歌謡界の草創期を描いた物語としてもたいへん興味深い作でした。
主人公の一人である藤山一郎は、私も子供の頃に親の見ているナツメロのテレビ番組に出ていた姿をよく覚えていますが、あの頃60代だった藤山の歌に歳をとってもしっかりとした声だなぁと思ったものでした。その記憶があるおかげで本作には入り込みやすかったのですが、彼が、そして他の歌手や私でも知っている歌の数々をつくった作曲家や作詞家たちが、ここまで熱い想いで戦争に直接かかわり人々を鼓舞していたという事実が、衝撃的でした。
作中に登場する歌の数々もいまはYouTubeで聴くことができますので、いくつか聴いてみました。タイトルは有名でも知らない曲がけっこうあって、また、藤山一郎の若い頃の歌声もテレビで聴いた歳とってからのとは違う色気があったり、演奏も郷愁的ではありますがあまり古くささを感じずよくできていたりと、ちょっとはまってしまいそうな世界です。

馬場さんは、実際に出兵した父親のことを頭にこのテーマで書かれたようですが、私も読むにあたって亡き父のことを思います。父はまだ召集される年代ではなく、学徒動員で軍需工場で働いた程度でしたが、のちに学校の先生となり当然ながら教組に所属し、また趣味はクラシック音楽を聴くことだったのに、歌えるのは軍歌と君が代だけという人でした。子供時代にそれしか聴いていなかったのだから仕方ありません、それしか世に出せなかった時があったということです。それが本書に描かれている時代です。

ラストに、本作の登場人物たちのその後が記されていますが、唯一没年がない森光子がこの本の刊行直前に亡くなったことで、本当にあの戦争が過去の歴史になってしまった感があります。
馬場さんも、私の父にしても、戦場を知らない世代です。やたらと勇ましいことを言って隣国を挑発する元都知事のような爺にしても然り、戦争を知らない人間の無責任な発言でしかありません。自虐史観とか屁理屈をこねて事実をなかったことにし、あまっさえ被害国を悪者にするような思考の持ち主が増えているように感じられる昨今、かつての過ちを繰り返さないこと。それは今を生きる一人一人の責任なのだと気付かなければなりません。

と、重く大切に考えさせられるテーマはありますが、読み物としての面白さも十分な本作。歌が人に与える影響力の大きさには興奮させられましたし、実在の登場人物たちの活躍し苦悩する姿は人間ドラマとして胸に迫ります。戦時でも音楽家としての魂を発揮し続けヒットを追求めてしまう業の深さにも人間味を感じました。
そして、終戦を迎えた後も帰還までの1年近い時間を極限状態のなかにおかれながら、歌う将校として使命を果たした藤山一郎の姿には戦慄を覚え、涙も禁じ得ませんでした。3部作の最後を飾る感動的なクライマックスとなりました。

前2作はほとんど国内におけるクリエイター事情でしたが、本作は前線の状況が描かれた分、戦争の怖さや悲惨さが強く伝わってきました。
戦争はしてはいけない。それは、絶対的な真理として誰もが心に刻んでおかなければならないこと。いかなる理由があっても、戦争を仕掛けてはいけない。受けてもいけない。もちろん、日本だけがではなく、世界中の国が、です。そうした世の中こそ目指さなければならない、そろそろ人間も、そういう境地に入れるはずだと信じたい。
もしも戦争が起きたら誰もが否応なく加担してしまう、歴史をふまえてのそんな馬場さんの不安が杞憂であるよう、想いはしっかり次の世代その次の世代へと継いでいかなければならないのです。


過去ブログ「花森安治の青春」の感想


 

拍手[0回]

「我ニ救国ノ策アリ 佐久間象山向天記」仁木 英之(幻冬舎)の感想です。fd0d118d.jpeg

あまり幕末の時代劇など見ないもので、佐久間象山の名は聞いたことがあると思っても、どのような人物かは知らないで読んだ本作。とはいえ、仁木作品への信頼感はすでに大きいので、購入に不安はなく、ただ、純粋なる歴史小説なのかファンタジーなのか、それは読んでのお楽しみということで…これは骨太な歴史物でした。
仁木氏の中国歴史物は、日本とはスケールも文化も違う国ゆえに、史実としてもどこかファンタジーを感じるのですが、本作は日本が舞台ということで、今の世につながっているリアルさが出てきます。タイトル的にも、現代へのメッセージ性を受け止められますが、その思想は右でも左でもなく、日本の文化への想いとして、とても好感の持てるものでした。

佐久間象山、その傲岸不遜な人物像はものすごくエネルギッシュであり、同時に能力を持ちすぎる人間の危うさに満ちていて、なんとも感情移入するには違和感のある主人公でした。すぐれた学者であっても政治家には向かない、ただあの時代が本当に必要とした傑材だった、それが実によく伝わってくる文章の冴えだったと思います。
若き吉田松陰や勝海舟、本作中には出てきませんが坂本龍馬などの師として、納得できるだけの巨大な才が、ついには空を目指すというところに作者の思い入れの大きさが感じられました。
ドラマチックなシーンなどはあまりなく、淡々と進んでいくように見えますが、劇的に変化していく幕末の空気の真ん中でぶれることなく立ち尽くす象山の姿が際だち、読んで胸が躍る快作となっているのでした。

さて、このような人物が現代の政界に存在するならば…とつい考えてしまいますが、幕末でさえついに政の中心には立てなかった象山、今であればなおさらでしょう。保守的な嗜好に縛られていたり、よく考えもしないで自分の感情や表面的なポピュラリティでの発言をする政治家が人気を得るような風潮ですから…。
しかし、こうした深い思慮の上で自らの論を主張できる人間が必要とされるのも事実。その意を汲めるような世の仕組みでなければならないと思わされました。まぁ、こんな人物は現代に見あたらないのも事実なのですが。

 

拍手[0回]

<< 前のページ 次のページ >>
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
[06/01 WaxJelia]
[01/25 本が好き!運営担当]
[03/27 うらたじゅん]
[10/28 のりこ]
[08/04 つばめろま〜な]
最新TB
プロフィール
HN:
つばめろま〜な
性別:
男性
趣味:
絵・音・文・歩
自己紹介:
長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
下記に作品等アップ中です。よろしくお願いします!
■マンガ作品  COMEE
http://www.comee.jp/userinfo.php?userid=1142
■イラスト作品 pixiv
https://www.pixiv.net/users/31011494
■音楽作品   YouTube
https://www.youtube.com/channel/UChawsZUdPAQh-g4WeYvkhcA
■近況感想雑記 Facebook
https://www.facebook.com/profile.php?id=100005202256040
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
忍者アナライズ
忍者アナライズ
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]