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「従軍歌謡慰問団」馬場マコト(白水社)の感想です。51UUX-VFlAL.jpg

最近は仕事をご一緒する機会がなく残念なのですが、馬場マコトさんから刊行お知らせのメールが届くのはありがたいことであります。いち早く読むことができました。
戦前〜戦中の業界を描いた3部作の締めとなる本書は、広告・出版界を舞台にした前2作、広告業界を舞台にした「戦争と広告」、出版界を描いた「花森安治の青春」に比べ、芸能界のはなしなので一般の人にもわかりやすいかと、そして一貫している反戦のメッセージ性も、より強いものになっていたと思います。
前2作の積み重ねがあっての本作となりますが、その労はかなりのものであったと推察されます。あとがきにもありましたが、資料に当たるだけでなく実際に日本軍が侵攻した中国本土や南方の島々まで旅しての著作は、作業の困難さだけでなく思い入れも強くなるでしょう、情景の情動のリアリティを感じさせてくれます。

戦時の音楽というテーマ以前に、レコード業界や歌謡界の草創期を描いた物語としてもたいへん興味深い作でした。
主人公の一人である藤山一郎は、私も子供の頃に親の見ているナツメロのテレビ番組に出ていた姿をよく覚えていますが、あの頃60代だった藤山の歌に歳をとってもしっかりとした声だなぁと思ったものでした。その記憶があるおかげで本作には入り込みやすかったのですが、彼が、そして他の歌手や私でも知っている歌の数々をつくった作曲家や作詞家たちが、ここまで熱い想いで戦争に直接かかわり人々を鼓舞していたという事実が、衝撃的でした。
作中に登場する歌の数々もいまはYouTubeで聴くことができますので、いくつか聴いてみました。タイトルは有名でも知らない曲がけっこうあって、また、藤山一郎の若い頃の歌声もテレビで聴いた歳とってからのとは違う色気があったり、演奏も郷愁的ではありますがあまり古くささを感じずよくできていたりと、ちょっとはまってしまいそうな世界です。

馬場さんは、実際に出兵した父親のことを頭にこのテーマで書かれたようですが、私も読むにあたって亡き父のことを思います。父はまだ召集される年代ではなく、学徒動員で軍需工場で働いた程度でしたが、のちに学校の先生となり当然ながら教組に所属し、また趣味はクラシック音楽を聴くことだったのに、歌えるのは軍歌と君が代だけという人でした。子供時代にそれしか聴いていなかったのだから仕方ありません、それしか世に出せなかった時があったということです。それが本書に描かれている時代です。

ラストに、本作の登場人物たちのその後が記されていますが、唯一没年がない森光子がこの本の刊行直前に亡くなったことで、本当にあの戦争が過去の歴史になってしまった感があります。
馬場さんも、私の父にしても、戦場を知らない世代です。やたらと勇ましいことを言って隣国を挑発する元都知事のような爺にしても然り、戦争を知らない人間の無責任な発言でしかありません。自虐史観とか屁理屈をこねて事実をなかったことにし、あまっさえ被害国を悪者にするような思考の持ち主が増えているように感じられる昨今、かつての過ちを繰り返さないこと。それは今を生きる一人一人の責任なのだと気付かなければなりません。

と、重く大切に考えさせられるテーマはありますが、読み物としての面白さも十分な本作。歌が人に与える影響力の大きさには興奮させられましたし、実在の登場人物たちの活躍し苦悩する姿は人間ドラマとして胸に迫ります。戦時でも音楽家としての魂を発揮し続けヒットを追求めてしまう業の深さにも人間味を感じました。
そして、終戦を迎えた後も帰還までの1年近い時間を極限状態のなかにおかれながら、歌う将校として使命を果たした藤山一郎の姿には戦慄を覚え、涙も禁じ得ませんでした。3部作の最後を飾る感動的なクライマックスとなりました。

前2作はほとんど国内におけるクリエイター事情でしたが、本作は前線の状況が描かれた分、戦争の怖さや悲惨さが強く伝わってきました。
戦争はしてはいけない。それは、絶対的な真理として誰もが心に刻んでおかなければならないこと。いかなる理由があっても、戦争を仕掛けてはいけない。受けてもいけない。もちろん、日本だけがではなく、世界中の国が、です。そうした世の中こそ目指さなければならない、そろそろ人間も、そういう境地に入れるはずだと信じたい。
もしも戦争が起きたら誰もが否応なく加担してしまう、歴史をふまえてのそんな馬場さんの不安が杞憂であるよう、想いはしっかり次の世代その次の世代へと継いでいかなければならないのです。


過去ブログ「花森安治の青春」の感想


 

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