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「幽霊さん」司修(ぷねうま舎)


読んでから半年以上経っての感想となってしまいました。
画家であり小説家であり、よく知られているのは絵本や装幀でしょうが、その司修の作品と出会ったのは、もう40年も前のこと。詩とメルヘンに掲載されていた絵物語に衝撃を受けたからでした。まだ子どもでしたが、妹と一緒に母に連れて行ってもらって個展を見た記憶は今も鮮明です。
司氏の小説を読むようになったのは大人になってからですが、貧乏画家の私小説風な物語に、自分とは違う世界を感じて惹かれ、多くの作品を読んできました。

本書は、東日本大震災と原発事故を背景に、死者との対話が描かれる話を表題作とした短編集です。そのほかの作品も、私小説のようで幻想小説的なところがある、重苦しいですが乾いた感じのある雰囲気が不思議な味わいでした。帯に「怖い話」とコピーが記されていましたが、幽霊は出てきても怪談の類ではありませんので。怖いのは地震や原発という現実です。

「幽霊さん」は、震災後の東北を訪れた画家の話ですが、この世とあの世の境界のような場所で、自然と死者に向き合い語り合う描写が、かえって鮮烈でした。芸術家の感性でとらえる体制への批判的な視線も、ストレートに刺さってきます。それは理屈ではなく怒りや悲しみですから。
強く印象に残ったのは、画家宅に押し掛けてきてわけのわからないことをしゃべりまくる女の話。いかにも精神を病んでいる人なのですが、その話自体が眠りの中で見た悪夢をそのまま綴った、作者の精神の不安定さを表すような作品になっていたのが不快で面白く思いました。

司修さんも、数年前に横浜や群馬での回顧展が開かれましたが、まだまだ若々しく精力的に執筆や画業をされていますので、楽しみに次作をお待ちしたいです。できれば肉筆画の1枚も手に入れたいと思うのですが…貧乏人の過ぎた夢でしょうか。

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「黄泉坂の娘たち」仁木英之(角川書店)

3年前に出た「黄泉坂案内人」を読んだとき、好きな話だけれど主人公的にきれいに終わっていたので、続編はないと思っていたのですが、シリーズ化もできる展開になって再登場してきました。
先の大震災がきっかけだったのかも、と勝手に思ったりしましたが、前巻の発刊自体は震災から4ヶ月後だったようです。今回の発刊のタイミングも、広島の土砂崩れや御嶽山の噴火といった災害が続いた直後だけに、より意味深く感じられてしまいました。

「娘たち」と付いているように、小さい子どもから大人までの若い女性たち(何百年も生きてる人たちも多いけれど)が主要登場人物になっていて、みんなそれぞれに魅力的です。
仁木作品の特徴ですが、アニメ的なキャラクター属性が付帯しているので、個性化が図られて読んでいて楽しさがあります。死を扱うテーマが重い分、そのくらいの軽さがあるのはありがたい感じです。達観したツンデレ美少女仙人より、戸惑い迷うザンネン美人神様の方がかわいいような。

物語は、生々しい現代のOL編から、時代をさかのぼった戦国武将編へと続いたときには面くらいましたが、あの世とこの世の狭間でたくさんの死に向き合う人も神も妖もが、未練を持つ魂について真剣に考え、ぶつかりあいながら行動する姿は、とても示唆に富んだもので面白く感動的でした。
いずれ続巻も出るのではないかと思いますので、きっと川向こうに渡ったりもするでしょう。彼岸がどのように描かれるのか、どんなキャラクターが現れるのか、想像もできないだけに楽しみです。

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「赤土色のスペイン」堀越千秋(弦書房)

もう何年になりましょうか、いつも横浜ジャズプロムナードで板橋文夫オーケストラのバックで巨大なライヴペインティングをしている姿を見てきた堀越さん、一昨年と今年はその打ち上げでご一緒させていただき、お話はできませんでしたがその魅力的な人柄に触れることができました。
…ということで、本を出されているのだから読めばいいんだと、個展が開かれていた銀座の画廊香月にて1冊購入。絵を買うのは経済的に難しいですが、絵もいっぱい掲載されている本ならば多少高くても大丈夫です。

さて、本の内容は数十年住み続けているスペインについてのエッセイが3分の2、残りは日本に来ている時のエッセイという構成でした。どちらも作者の生き方と周りの人との関係が刺激的です。
とにかく文章が味わい深くて人柄そのもの、生活体験としてのおもしろおかしい出来事が、感情豊かでユーモラスに物語られています。その中で、スペインに対して、また日本に対して、そこで出逢う人たちに対して、愛情を持ちながらも厳しい視線を投げ掛けている、それが知的であるとともに芸術家としての直観に依っているので、重く響いてくるのです。
本文もこの上なく面白かったですが、その内容に沿った絵も、画家としての観察眼とそれを自由に表現する心が素晴らしく、倍以上に楽しませてもらえる本でありました。

それにしても、こんなに多彩な分野で活躍をされている多才な方だったとは存じ上げず、毎年のステージ上でのお姿と抽象的な絵を茫漠と眺めていた自分を口惜しく思ってしまいました。また近々、別の本も手に入れて読みたいと思います。

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ロシアのピアニスト、ユリアンナ・アヴデーエワのピアノリサイタルを聴きました。家から徒歩で行ける、鎌倉芸術館の大ホールでやると知って、これは聴かねばと思った次第です。
ぜひ行きたいと思った理由、ひとつには、私の大好きなロシアの若い音楽家であること。もうひとつは、前回2010年ショパン国際コンクールで、45年ぶりの女性優勝者となったアヴデーエワ、かつてはブーニンが優勝したときのNHKのドキュメンタリー番組で、その後は漫画「ピアノの森』や小説「いつまでもショパン」などで描かれてきたショパン・コンクールの優勝者ということで興味がありました。
 
前情報はそんなところ、実際の演奏を録音でも映像でも聴いていなかったので、チケットを買ってからネット検索してみれば、素晴らしいという人と期待はずれという人の感想が出てきますので、期待と不安の両方が渦巻きます。前日にNHKテレビのクラシック番組でモーツァルトのコンチェルトが放映されていましたが、演奏はあえて見ずにインタビュー部分だけ少し見て、容姿と音楽への姿勢だけは確認。期待が上回ったところで開演を待つことになりました。

○1曲目はモーツァルト、【ピアノ・ソナタ 第6番 ニ長調 K.284「デュルニッツ」】。
私はこの作曲家が苦手で退屈に思ってしまうのですが、アヴデーエワは実に軽やかで楽しそうに弾きます。彼がどうして天才と言われたのか、このあとの演目となっているリストやショパンも大きな影響を受けたというのがどうしてなのか、感じることのできる素晴らしい演奏でした。

○2曲目、3曲目はリスト。この作曲家は好きです。ピアノの超絶技巧で知られますが、叙情的な曲が多くて心に広がってくる気がするのです。
【ヴェルディ《アイーダ》より 神前の踊りと終幕の二重唱 S.436】は、きらびやかな音で満たされる荘厳な感じ、ともすれば色彩に目が眩むようになりそうなところ、一音一音を大切に弾くアヴデーエワは曲の輪郭をくっきりと描いている、と思いました。(この曲の他の人の演奏を聴いたことがないので比較ではなく、あくまで主観です。)

【巡礼の年 第2年「イタリア」から ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲】は、打って変わって重く激しい曲。これは圧巻でした。低音部をパワフルに打鍵しながら、その奥の深慮が感じられます。楽譜と向き合い、作曲家の意図を感じ取るのが好きだというアヴデーエワだからこその演奏かもしれません。感性や個性が際だった演奏も好きですが、この人が理知的なピアニストと言われて評価されている優れたところでしょう。

休憩をはさんで、後半はショパン。ショパンコンクール優勝者だけに、やはり大きな楽しみです。
【24の前奏曲 作品28】、短くてエッセンスが凝縮された曲が次々と、時には間を開けずに演奏されていきます。前のリストのように派手さはないけれど、作曲家の発想の原点が見れるようで興味深く、きっと弾いている人はもっと楽しいのだろうと思いました。一曲ごとに異なる個性を明確に繊細に弾き分けていきながら、全体として一つの曲にまとめあげ、フィニッシュには爽快感がある好演でありました。

アンコールは3曲、ショパンの【ノクターン 第4番 ヘ長調 op.15-1】【マズルカ 第20番 変ニ長調 op.30-3】【マズルカ 第23番 ニ長調 op.33-2 】。万雷の拍手に対してはにかみながらもニコニコと、嬉しそうに応えてくれるアヴデーエワさんが温かくステキでした。

29歳の女性ピアニストですが、モノトーンの光沢のあるスーツに黒のパンツスタイル、決して美人ではないけれど笑顔が素敵な、派手ではないけれど音楽家としての真摯さが全身に現れているような、そして音楽にもそうした魅力があふれている、素晴らしいピアニストです。ロシアらしい泥臭さがあまりなく洗練された演奏で、ただ感動に震えさせられるだけではない、幸せな気持ちにしてくれるコンサートでした。

販売されていたCDの中で、「第16回ショパン国際ピアノ・コンクール・ライヴ」を買ってきましたが、ショパンのピアノ協奏曲1・2番も欲しかった…またそのうち。サイン会は行列が長いので諦めて、身近でお顔を拝見するだけで帰ってきました。今後、どんな曲を弾かれるのか…今回の来日の別プログラムにあったプロコフィエフや、バッハなども聴いてみたいと思ってしまう、すっかりファンになった私でありました。

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今年で22回めを迎えた横浜ジャズプロムナード、2日間、10ステージを聴くことができました。私も運良く22年間通い続けて来れましたが、強く感じられたのは、ベテラン、中堅、若手がそれぞれに熱い想いを発揮して、それが絡み合ったりぶつかったりして刺激し合い、新しいエネルギーが生まれていることです。そんな演奏をいくつも聴けて、例年になく満足感の大きなジャズプロでした。
聴いてきたステージについて、私の勝手な感想を書かせてもらいます。ミュージシャンの名前にはみんな「さん」を付けたいところですが、文章の都合で敬称なしで失礼します。
 
1日目・10/11
■Orquesta Libre + Suga Dairo + RONxII
■Shun Sakai & The Long Goodbye
■市川秀男トリオ
■横濱JAZZ オールスターズ
■鬼武みゆきwith Friends

2日目・10/12
■赤松敏弘(vib) meets ハクエイ・キム(p)
■KANKAWAカルテット
■渋谷毅オーケストラ
■板橋文夫 FIT!
■板橋文夫オーケストラ


1日目・10/11

■Orquesta Libre + Suga Dairo + RONxII <横浜市開港記念会館>
  芳垣安洋(ds) 青木タイセイ(tb) 塩谷博之(ss,cl) 藤原大輔(ts) 渡辺隆雄(tp)
  Gideon Jucks(tub) 高良久美子(vib) 鈴木正人(b) 椎谷求(g) 岡部洋一(per)
  スガダイロー(p) RONxII(tap)

昨年に続き、オープニングに選んだバンド。「Aトレイン」や「キャラバン」などエリントンの曲を中心にしたプログラムで、でもアレンジがスタンダードを聴いているような古さを感じさせない、このバンドにふさわしく、スピーディ&パワフルな演奏を聴かせてくれました。
特に、音楽に合わせて踊るのではなく、いっしょに音楽を作っていくロンロンのタップダンスが素晴らしく、スガダイローのピアノはダイナミックだったり美しかったりと変化に富んでいて、渡辺隆雄のトランペットもかっこよかったのが印象的です。昨年以上に面白く刺激的で、2日間のジャズプロへの期待感を高めてくれました。


■Shun Sakai & The Long Goodbye <関内ホール 大ホール>
  酒井 俊(vo) 土井徳浩(cl) 太田朱美(fl) 類家心平(tp) 纐纈雅代(as,ts)
  坂本弘道(cel) 向島ゆり子(vl) 熊坂路得子(acc) 田中信正(p)
  瀬尾高志(b) 竹村一哲(ds)

昨年のジャズプロで久しぶりに聴いて、とても感動した酒井悛さん、今年は多くのバックメンバーが変わり、大幅に若返りました。
女性ジャズボーカルというと、どうも気取った感じが苦手なのですが、酒井俊にはそうしたところがまったくない、スッピンで歌いながらも人情や色気や喜怒哀楽がストレートに出てくるような歌がステキです。
ボーカルが中心になりながらも曲ごとに編成を変え、繊細に歌の世界観を掘り下げて作り上げていくのがとても素晴らしく感動的です。類家心平のトランペットとのデュオや、女性メンバーとの交感や、瀬尾高志や田中信正との息のあったやりとりなど、聴き所満載でした。
CDではよく聴いていながらも生で聴く機会がなかった向島ゆり子、坂本弘道の演奏が聴けたのも個人的に嬉しく。このメンバーでこれからレコーディングするということで、期待に胸が高鳴ります。


■市川秀男トリオ <関内ホール 小ホール>
  市川秀男(p) 二本柳守(ds) 加藤真一(b)

聴きに回った一日のプログラムの中で、市川さんの演奏はオアシス的な存在です。アクが強くなくインパクトはありませんが、その品格を感じる音楽からは、ジャズってそもそもはこれが正統なんだろうなと思わされるのです。アメリカのスタンダードもやらない、自分の曲だけで聴かせるところがまた素晴らしく。特に最後に演奏した1曲は心に残りました。一番弟子という斉藤ネコとの話も面白く、久しぶりにネコさんにもジャズプロに登場して欲しいと願うのでした。


■横濱JAZZ オールスターズ <横浜市開港記念会館>
  類家心平(tp) 峰厚介(ts) 板橋文夫(p) 古野光昭(b) 守新治(ds)

板橋さんが自ら集めたメンバーで自分の名前で出る、のではなくて、同世代を中心としたバンドで出るのも珍しいことです。ただ、ステージを見れば、実力派揃いの中でもリーダーを努めているようでした。
混雑するのが予想できたので2階のバルコニー席で聴いたのですが、ステージの半分以下、ピアノとサックスしか見えませんでした。でもピアノを弾きメンバーに指示を出す板橋さんの手も顔も上からしっかり見え、これはフロア席とは違う楽しみ方ができたのは良かったです。
いちばん印象に残ったのは類家心平のトランペット、先に聴いていた酒井俊とのステージでは繊細なところを見せてくれましたが、こちらでは思いっきりの良いプレイで楽しませてくれました。
残念ながらサックスの井上淑彦が病気で欠場でしたが、代役が峰厚介というジャズプロならではの豪華さ。聞けばほとんどリハもなしに、しかし名演を聴かせてくれるのがさすがです。それこそがジャズなんだなあと。


■鬼武みゆきwith Friends <関内ホール 小ホール>
鬼武みゆき(p) 中西俊博(vl) 赤木りえ(fl) 鳥越啓介(b) 岩瀬立飛(ds)

鬼武さんは2年ぶり、前回は楊琴奏者がゲストでの演奏でしたが、今回は息のあったメンバーでの安定感あり楽しませてくれるステージでした。
鬼武みゆきの音楽は彼女の心の美しさ、優しさが強く出ていて、赤木りえのフルートや中西俊博のバイオリンとぴったり合います。HPでやられている、各界の人からメッセージをもらって写真とコラボレーションして作られた音楽を、何曲も演奏されました。心にしみます。MCも人柄が出て温かいものです。
終了後はCDを購入して皆さんのサインをいただきました…それにしても鬼武さん、HPで年齢を見てみましたが、間近でお会いしても10歳以上は若く見える、いつまでもお美しい方です。


2日目・10/12

■赤松敏弘(vib) meets ハクエイ・キム(p) w <ヨコハマNEWSハーバー>
  赤松敏弘(vib) ハクエイ・キム(p) 市原ひかり(tp) 小山太郎(ds) 生沼邦夫(b)

第1回のジャズプロから8〜10回くらい聴いている赤松さんですが、今回は世代も多様で、それぞれに人気と実力のある人が集まった、なんとも贅沢なメンバー。同世代の仲間とのセッションとはまったく違う、スリリングで創造性にあふれた、最高の演奏でした。赤松さんは演奏や作曲だけでなく、人をまとめる力がどんどん強くなっているように思えます。。
ハクエイ・キムも、数年前に自身のリーダーバンドで聴いたときはもう一つ面白味が感じられなかったのですが、今回は違う世界とふれ合うことでの自由さがよく出ていたと思います。小山太郎のドラムもさすがの切れ味。市原ひかりのサックスも、紅一点で花を添えるだけでない、若い感性を持った魅力が活かされていました。
このおメンバーでのアルバムがもうすぐ出るということですので、とても期待できて楽しみです。


■KANKAWAカルテット <横浜市開港記念会館>
  KANKAWA(org) 太田剣(as) 越智巌(g) Gene Jackson(ds)

久しぶり、3回めのKANKAWA。日本のジャズオルガンで第一人者だと思いますが、1曲めはピアノのソロからスタート、このピアノがとても情感があって良いのでした。そしてピアニカを吹いた曲もあって、オルガン演奏の中に刺激的なアクセントを加えます。
以前、みなとみらいホールのパイプオルガンを弾いたのも聴きましたが、とにかく自由に音を楽しむ人だということがわかります。ラストの曲はまるでピンク・フロイドを聴いているかのような壮大なスケール感で感動的でした。
そして、アンコールに応えての語りから演奏の中で、会場みんなで声を揃えて「ジャズ」の一言を叫ぶ、こんな演出を可能にするKANKAWAのカッコよさにしびれます。何も決めずにステージに上るという彼を支えるメンバーもソウルが通じ合っているからでしょう、見事な演奏でした。


■渋谷毅オーケストラ <横浜市開港記念会館>
  渋谷毅(p,org) 松風鉱一(as,bs,fl) 峰厚介(ts) 津上研太(as,ss) 林栄一(as)
  松本治(tb) 石渡明廣(g) 上村勝正(eb) 外山明(ds)

第1回のジャズプロで聴いて以来、22年ぶりとなりますが、メンバーも6人が一緒というのが驚きです。当時の私にとっては、どうものめりこめない感じだったのですが、演奏者も、聴き手としても、年月を経た今、改めてどう感じるだろうか…と思って聴きました。
…印象も変わりませんでした。不思議、実力者揃いで曲も悪くないし良い演奏なのに、どうして心に入ってこないのでしょう。峰厚介は前日、林栄一はこの後の板橋文夫と一緒の演奏で聴いた時は熱く心に響いたのに…。知的な渋谷毅が率いる礼儀正しい感じが?とも思いますが、ならば前日の市川秀男はなぜ良いと思うのかと。しかしそれこそがジャズならではなのでしょう。だからこんなにたくさんのミュージシャン、ステージの中から自分の感性に合ったミュージシャンやユニットを見つける面白さがあるのですね。


■板橋文夫 FIT! <関内ホール 大ホール>
  板橋文夫(p) 瀬尾高志(b) 竹村一哲(ds) +レオナ(tap)

Fumio・Ittetsu・TakashiのFITも5年目くらいになるのでしょうか、最初は板橋文夫が若手の2人を引っ張って育てているような雰囲気もありましたが、年々物凄い進化を見せて、すでに同格のトリオです。息があっている中で、息詰まるような緊張感と爆発的な解放感を出してくる、文句なしに今の音楽界全体を見ても最高のパフォーマンスを持ったグループであると言えるのではないでしょうか。
次のオーケストラで強く感じましたが、板橋文夫+その他のミュージシャンというより、FIT+その他のミュージシャンと思えるほどに、瀬尾高志の自由なベースプレイ、竹村一哲の余裕をもって全体を見渡すドラミングは、ステージの中心となって安定感のあるものになりました。
そしてゲストのレオナによるタップダンスも見ものでした。1日目の最初に見たロンロンのタップとはまったく違う、迫力のある音を全身から叩きだし、絞り出して来るような感じで、板橋音楽を見事に、そして新鮮に体現しました。


■板橋文夫オーケストラ <関内ホール 大ホール>
  板橋文夫(p) 瀬尾高志(b) 竹村一哲(ds) 林栄一(as) 纐纈雅代(as) 片山広明(ts)
  吉田隆一(bs) 類家心平(tp) 後藤篤(tb) 高岡大祐(tub) 太田恵資(vl)
  外山明(ds) 堀越千秋(ライブペインティング) レオナ(tap)

FITで熱くなったステージに、さらに熱風が吹き荒れるオーケストラ。こちらも少しずつ若返りが進んでいますが、今年はトロンボーンが後藤篤になり、板橋文夫と同世代は老眼鏡がトレードマークになりつつある林栄一、激ヤセが少し心配な片山広明だけになりました。少し寂しい感じもありますが、サウンドはものすごくイキイキと弾けて、気持ち良く変わりました。
板橋さんは同世代に対するのとは違って、若手に対してはとても自由にやらせているのではないか、若い人たちも物怖じせずに応えている、というような気がします。
昨年は高岡大祐の怪物パフォーマンスに目が行ってしまっていましたが、昨年は遠慮がちだった纐纈雅代も今年は堂々のソリストぶりを自由に発揮していましたし、類家心平のトランペットも圧倒的な音を聴かせてくれました。吉田隆一と林栄一の曲もあり、バラエティに富んだプログラムでこのオーケストラの魅力が引き出されていたと思います。
レオナのタップダンスはこの大編成の中でも負けずに主張していたし、堀越千秋の巨大絵画もいつも通りジャズの心のように自由に広がっていたし、ジャズプロ2日間の昂った気持ちを締めくくるにふさわしい2時間半でした。


演奏者の皆さん、運営スタッフの皆さん、お疲れ様です、感動をありがとうございました。また来年も、さらなる進化と新しい出会いがあることを願っています。

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男性
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絵・音・文・歩
自己紹介:
長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
下記に作品等アップ中です。よろしくお願いします!
■マンガ作品  COMEE
http://www.comee.jp/userinfo.php?userid=1142
■イラスト作品 pixiv
https://www.pixiv.net/users/31011494
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