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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「活版印刷三日月堂」
「活版印刷三日月堂 海からの手紙」
「活版印刷三日月堂 庭のアルバム」
「活版印刷三日月堂 雲の日記帳」
(ポプラ文庫)

活版で印刷されたものから、さまざまな人と出来事と心がつながっていく、温かさが滲み出るような物語。設定はもちろん、構成や文章が良いのでどんどん読まされ、人生についていろいろと考えさせられることも多い傑作でした。1・2巻を続けて読み、3巻も出てしまい、感想を書きかけの間に次の巻が出て…ということで、最後までまとめてのアップとなります。

私的には、2年ほど仕事で何度も訪れ、ついでにあちこちと街歩きも楽しんだ川越が舞台、一番街や菓子屋横町、大正浪漫通り、氷川神社、その周辺の町並みなど知っている風景に親しみを感じました。場所的には東京の郊外という位置ですが、小江戸と称され観光地化も進み、地元の人も誇りと愛着を持って住んでいる街という印象が強いのです。いかにも古い印刷所が残っていそうだし、本作の登場人物たちも、そうした川越の人らしさがしっくりきます。
そして、印刷関係の仕事に長く就いていたので、名刺やはがきなど活版印刷所に発注していたこともあります。当時はそれが普通だったし、まだコンピューターによる電子組版の方が珍しく可能性が広がっていた頃、活版の不便さは思っても良さなんてものには気付きもしませんでした。ちょうど印刷テクノロジーが激変する時代でした。しかし本作は、すっかりIT化が進んだ現代で古いものを再発見するのがテーマではなく、新しいものを創っていく物語だと思います。

物語は印刷所を再会するきっかけのところから始まりますが、その後も、人と人の絆を再スタートさせていくきっかけとして活版印刷が使われていく、印刷業に関わってきた人間としては少し嬉しくなるエピソードの数々。
気になるのは、ワンパターンのように活字の詰まった工場の壁に驚くところ、重暗さを持った女性たちばっかりというところ…でしたが、3巻くらいから脱却して、世界が深まったように思ったのは、主人公ほか登場する人たちの、失われた家族の関係性が掘り起こされてきたからでしょうか。
毎回、物語のつながりの中で主役がバトンタッチしていくロンド形式で面白くて、全体の主人公である三日月堂女性店主の存在感が強くなるほどに、周りの人の輪郭も際だっていきます。母の旧友も、女子高生も、岩手の印刷会社の人も、しっかりと心の重さが感じられました。

そして最終4巻。活版印刷を通じて関わってきた様々な人たちの視点による物語が、主人公のもとに帰結する見事できれいな流れでした。星座早見盤、タウン誌、フリーペーパー、そして書籍と、印刷物も多種多様で楽しく、その紙面に込められた人々の想いがとても愛しく感じられました。
ひとを繋ぐメディアとしての印刷ですが、そこに載るのは感情、思惟、思想であり、それを伝えたい気持ち、生きる姿です。形として残る物、データと違って人の手に渡ってしまえば消去できないモノだからこそ、こだわって作りたい。予算が許せばこそですが、商業印刷だけでなく同人誌活動で自分の本を何十タイトルも作ってきたのでよくわかります。歳をとって昔のようにはできなくなった今たからこそよけいに、最後の本づくりのエピソードは心に迫ってきました。

いろんな人が主人公になって、三日月堂で刷られた物を通して次の話にバトンタッチされていく構成、色々と面白いエピソードがあって楽しませてもらいました。
印刷博物館でのコラボ展示と作中に出てきた印刷物の再現も嬉しいものでした。仕事にしているので普段は身近過ぎますが、印刷って世の中に必要なものだと、改めて思い知らされた大切な全4巻です。

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2018年11月4日の日曜日。印刷博物館と銀座ヤマハホールに行ったので、2つに分けて書きます。
まずは印刷博物館「天文学と印刷」展、「活版印刷三日月堂」コラボ企画展

むかし仕事の打ち合わせで何度も来たことのあるトッパン印刷、そこにある印刷博物館に興味はありながら立ち寄る機会なく来ましたが、見たい企画が同時に開催ということで初めて入館しました。さすがに印刷業界ビッグ2の企業による展示は内容も見せ方も素晴らしく充実していました。

「天文学と印刷」は、グーテンベルグが発明してすぐの時代の印刷技術が、天動説の世界観を地動説の世へと導き、世界に広がっていくのに果たした役割の大きさが、たくさんんの貴重な書物の現物で見ることができ、感動的でした。天文学だけでなく地学、医学、植物・動物学など科学の発展に確かな情報発信がいかに大切かを学びました。

この展覧会のチラシが黒に金刷りの素晴らしいデザインなのですが(写真のように8種類あってつなげると全体像になるのです)、パンフレットも立派な書物だったので買ってしまいました。展示は駆け足で見たのであとでしっかり内容を読みたいものです(時間がないだろうなぁ)。


「三日月堂」は川越の活版印刷所を中心にしたとても面白い小説とのコラボ展ですが、作中に出てきた本やコースターや栞や星座早見盤というような印刷物が現実化されていて、ショップで買うこともでき、原作ファンにはたまらない内容でした。(本編とは関係ありませんが、大好きな大槻香奈さんの絵もあった!)

小説の感想をアップするより先になってしまいましたが、印刷・広告業界でずっと仕事してきた私にとって、この作品はとても尊い物語なのです。登場人物たちでなく、その登場印刷物にスポットを当てた展示が、さすが印刷博物館でした。
作者のほしおさなえさんの、活版で印刷された名詞サイズ140字小説や、番外編小説の小冊子を購入。本編はひとまず4巻で完結していますが、今後も楽しみな作家さんです。

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1巻からも間を置かずに連続で読みましたので、2巻分の感想をまとめて。


きんいろカルテット2 遊歩新夢(オーバーラップ文庫)

いきなり四重奏でなく七重奏団になってしまいましたが、人と楽器が増えるとともに語られる音楽の幅も広くなって、ストーリーもパワーアップした第2巻です。金管楽器の音色がどれほどの練習によって作られるのか、その大変さが伝わってきますが、実際に自分が持っているトランペットやトロンボーンの音を出したくなって吹いていてみれば数分でクラクラしてきます…それこそ毎日積み重ねる努力と好きだという情熱が大切。

世界が視野に入ってきた物語は、新たな登場人物たちも加わってにぎやかに、女の子はかわいらしく、演奏は熱く進んでいきます。飛び抜けた才能への妬みや、打ち解けることの難しい心など問題があっても、音楽バカの主人公とそれを慕ってまっすぐ進んでいく少女たちの姿は、嫌みがなく気持ちよく読めていいです。いろんな感情が表れた美しい音楽を聴くかのように。

1巻・2巻合わせても、新学期から夏休みにも入っていないだけのわずかな期間に詰め込まれた話で、どんどん上達しているのがさすがにありえない感じですが、才能と指導者とやる気が満ちて実現する理想郷、ある意味ラノベならではの無理な設定も押し通してしまう異世界ファンタジーと言って良いかもしれません。
最終3巻、これ以上どんな音楽の高みを見せてくれるのか、その上でどんな結末が待っているか、楽しみになります。


きんいろカルテット3 遊歩新夢(オーバーラップ文庫)

最終巻、さてどんな結末を見せてくれるかと楽しみに。またもトラブル発生というのはストーリー上仕方のないことですが、ストレートにハーレム疑惑というのがおかしかったです。音楽と女の子、その両極を一つに混ぜ合わせた味付けのバランスが、なかなか美味しい作品でした。

4月の中旬くらいに始まった物語、8月のコンクールまでたった5ヶ月ほどにずいぶんといろんなことが起こりました。その中でみんなの演奏スキルと音楽性がどんどん高まっていく、それでもまだまだ上には上があって際限がない…少し詰め込みすぎではないかと思うけれど、そこがファンタジー的、とてもリアルな音楽に対する描写とコントラストが付いていて面白さになっていました。

最後に後年談へと飛びますが、物語(の第一部)をきれいに完結してくれて良かったと思います。この先が書かれるなら、それは少し別の作品になるのだと思います。ただ、みんながみんな美少女設定にしてしまったのは、せっかく音楽で成長する心を描いてきたのに、逆に少し醒めてしまう気もして。中で私のお気に入りは、由真かな…報われずともすごく正直に頑張る姿がステキでした。

でもこの作品の面白さは、やはり音楽の描き方です。プロ演奏家の作者が、自分の分野の知識と経験と理想をフルに書き表した文章は、とても生き生きと迫力があり、聴いたことのない曲でも心の耳に響いてくるのでした。後からその曲の音源を聴いてみると、ブリティッシュブラスの地味さもあって…それもおじさんの演奏が多いし…そこまで鮮やかな印象を持つことがないのですが、これはやはり生で聴いてみたいと思ってしまいます。

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「きんいろカルテット」遊歩新夢(オーバーラップ文庫)

コルネット2本にテナーホーンにユーフォニアムというブリティッシュ・ブラスの編成、中学1年生女子4人の金管四重奏バンドの話、第1巻。馴染みのない音楽形態ですが、作者がペンネームそのままにプロのユーフォ奏者ということ、演奏の書き表し方や技術的なハウツーはもちろん、音楽への様々な考えや想いがギッシリ詰まった、硬派な作品でした…半分は。

あとの半分は、テンプレ要素満載な美少女ラノベなのですが、それぞれのキャラがしっかり音楽要素を抱え込んでいるので、イキイキとして愛すべき女の子たちになっていて、読んでいて、というより見ていて楽しく感じられました。もう少し一人一人の深堀りがあって個性が出ればとは思いますが、次巻以降の期待です。

ストーリーも流れよく、吹奏楽部に入れてもらえなかった4人が自分たちの目指す音楽に突き進んでどんどん成長していく姿、それを見た目ハーレム状態ながら、音楽への熱い想いだけで指導し支えていく主人公の心が、清々しく可笑しく。別に聖人君子というわけではなく、音楽に傾倒している関係の中なら普通にありだと思います。

いずれにしてもこれが小説デビュー作だったとのこと、音楽家の書く文章というのはだいたい特別な味があるので、続巻以降が楽しみになりました。

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「一瞬の風になれ」佐藤多佳子(講談社)

好きな作家の長編小説ですが、本屋大賞などであまりにもベストセラーになってしまって、かえって読みそびれていた10年以上前の作品、今さらですが3冊一気読みしました。

陸上スプリントに高校生活を捧げるスポーツ少年たちの話。爽やかで苦しくて甘酸っぱくて辛口なところもあり、どんどんページが進んでしまう本でした。陸上という競技、中でも1/100秒を競う短距離の世界、そこて限界まで鍛え抜く体育会系の部活が興味深かったこともあります。
けれどそれ以上に、個人競技であるとともにリレーチームとしての在り方にも重きが置かれ、部内やライバル校の人たちとの人間関係までがとても魅力的です。そこが佐藤作品の真骨頂でもありますし、大好きなところ。この作品が多くの人の心にふれるヒットをしたというのも、すごく素敵なことだったと思いました。

記録に挑戦し勝負にこだわり、あまりにもストイックすぎてナーバスなところに少しもどかしさを感じますが、スポーツものの王道でもあり、すべて最後の結果へとつながっていくカタルシスを信じられるから、才能を持つ者の宿命を知るのも一興と読んでしまいます。実際にやっている選手たちは、先の見えない中で苦しみ抜くのですから、まだまだ甘いのかもしれませんが。
恋や学内イベントなど、いくらでも物語を膨らませる余地もあるところ、陸上一本にテーマを絞って書かれたところに、爽やかな風のような読後感が残ったのだと思います。

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