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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「花のお江戸で粗茶一服」松村栄子(ポプラ社)

大好きだった小説「雨にも負けず粗茶一服」「風にも負けず粗茶一服」の続巻、書かれているなんて思ってもみませんでした。それほど面白く満足感のある作品だったからです。誰かに薦めたい小説を挙げるなら、筆頭にくる作品でありましたが、この「花のお江戸」も含めた粗茶シリーズとして、さらに満足度が高まりました。
前2巻は京都を舞台に、茶・剣・弓の三道の家元嫡男として生まれ育った少年主人公が自分を見つけようとする話でしたが、この巻では東京に戻った彼が次第にひとかどの青年として成っていく姿が、駆け足で過ぎていく月日の中でじっくり描かれました。

とにかく、最高に面白かった、というストレートな感想。前の話をずいぶん忘れてしまっていたので、続けて読んでいればもっと楽しめたのでしょうが、それでも主人公の屈折した性格だけど愛すべき人物の印象はぶれることなく、京都での体験や人間関係が土台になって自分自身と向き合えるようになっていく姿が清々しいのでした。

老若たくさんの個性的な人物たちが絡み合って物語が進んでいくのもワクワクします。普通の人の中にもある個性が強くにじみ出てくるのも、茶の力かもしれません。女性たちはちょっと怖いけれどかわいいし、男たちはちょっとバカだけど一本気だし、そんな人と人がしっかり対峙しあうから、魅力が際だってくるのです。

それもこれも、この作品の面白さの根底には、茶道の世界に触れられることがあります。お茶の稽古に通っていた母にも「雨にも負けず〜」を貸して読んでもらったことがあり、とても気に入ってくれましたが、伝統とか形式を超えた、茶をたしなむ心の本質に惹かれるのでしょう。その母が亡くなってから何年もお抹茶を飲んでないことに寂しさを感じ、せっかく家に道具があるのだから自由な気持ちで茶を点てていたいなと思わされたのでした。

シリーズ3冊とも、ラストに感動しながら笑わされるオチが付いているのも、読後感がさわやかで印象深く心に残るところです。電車の中で読む私にとっては、にやつきが止まらなくなる危険な本でもあるのでした。

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「横浜駅SF 全国版」柞刈湯葉(カドカワBOOKS)


横浜駅が勝手に増殖して本州全域を覆ってしまった終末世界が描かれる「横浜駅SF」の番外編。横浜駅の外、瀬戸内海の小島や九州や北海道を舞台にしながら、本編で登場した人物や関係する人たちが出てきての前日譚が多いので、謎の多い本編を補完するような内容になっていました。

面白いのですが短編のごとの関わりが少ないので、1巻通して引き込まれる読み応えは少なかったようです。あとがきを読むと、今後もシリーズ化されて刊行されていくのかも…かなりしっかりした設定が見て取れながら、まだ明かされずに謎が深まったところも多いので、続巻があるなら楽しみ。

アンドロイドたちの人間とは違う思考が興味深く、中でもやっぱり健気な性格のハイクンテレケがかわいい。独裁者などいないのに理不尽な体制に支配されているこの世界では、人間たちの心も壊れかけていて不可解な部分も多いので、むしろアンドロイドたちの方が理解しやすいのが面白いところです。

過去の歴史にあったような暗黒社会をモデルにしているのではなく、今の社会が未来に陥ってしまうかもしれない絶望的な世界が広がっているところに、この作者の深い思慮が窺えて、いまだに希望が見えないストーリーの先が気になる、そんな1冊でした。書店でシウマイ君特別カバーを着けてくれたのが嬉しかったけれど、本より少しばかりサイズが小さかったのが残念(笑)

1の感想はこちら
http://tubam.kamakurablog.com/Entry/140/
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「綺譚集」津原泰水(集英社)

2004年発刊とだいぶ前の本ですが、津原作品を読むのは「ブラバン」、「たまさか人形堂」シリーズ、「バレエ・メカニック」に続き5冊目、このタイトルと帯などの紹介宣伝文を見て、これはやばい方向そうだなぁと警戒しながらも、短編集なので少しは軽いかもと買ってしまったのでした。

短編集だから、それぞれの物語のエッセンスが凝縮されていて、軽いなんてものではなく、1作目からかなり胸が悪くなるようなグロ…後悔しながらも、けれど恐怖ではないので読み進めていけたのでしょう。全作品で殺したり殺されたりと人の死が描かれているのが徹底しています。
でもその中に、エロティックだったり暴力的だったりノスタルジックだったり美しかったり、いろんな人間の生き様や感情が描かれていて、文学的な遊びもあって面白かったし、読後感も決して悪くありませんでした。世界の見方や文章の感覚が合う作家なのだと思います。

15作も掲載されているので、それぞれに好き嫌いが大きく分かれながらも印象に残っていますが、好きなのは「赤假面傳」「頸骨」「約束」「ドービニィの庭で」というところでしょうか。どちらかと言えばソフト路線の作品になってしまいますが…ハードな中にあるので、余計に美しさや切なさのようなものが際だって感じられたということもあります。

死は、誰にでも等しく訪れるもので、早かろうが遅かろうが、穏やかだろうが凄絶だろうが、死んだらそこでおしまいと思っている(思うようにしている)のですが、もちろん死ぬ人の数だけドラマがある、だからどんなに極端な物語でも自分に関係のないことだとは思えない。個性的な死に様になにかしらの共感や嫌悪や、感情が渦巻いてしまうと、そういうことなのでしょう。図らずも、心に残る本になりました。

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「泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部」酒見賢一(文藝春秋)

酒見版三国志もついに最終刊です。600ページ超えといつにも増して分厚い本、持ち歩きは大変ですが読み応えがあって、長大な物語の締めくくりを楽しませてもらいました。前の刊で曹操、劉備、関羽、張飛と主要人物が死んでしまったので、ついに孔明の一人舞台、やっと軍師としての本領を発揮した活躍が描かれます。

とにかく強烈なキャラクター付けがされた孔明、最後まで変態性を保ったまま、しかしほかに有能な人材がいない国の事情から、政治も軍事も任されて真面目にやらざるを得ない状況となり、奇策の限りを尽くして頑張る姿がとても魅力的でした。南方遠征での孟獲とのエンドレスセブンな戦いはおかしくて印象に残るエピソードとなり、魏軍を火計で焼き殺すシーンは無慈悲な残虐さに戦慄し、主要キャラで唯一残っていた好漢・趙雲が死んだところでは涙し…そして孔明の死まで、濃いドラマがぎゅうぎゅうに詰まっています。

多くの文献をふまえて史実と虚構の解釈を加えながら、独自の孔明像を創り上げストーリーを展開していく酒見節は、三国志ビギナーにとっても非常に理解しやすく、二千年近く伝えら愛されてきた物語の魅力を存分に知らしめてくれました。酒見さんの作では、孔子の世を描いて森羅万象を明かしてくれるような「陋巷に在り」が私にとって生涯の傑作ですが、本作はエンターテイメントの味わい深さで別方向の傑作として心に残っていくことでしょう。

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「ピエタ」大島 真寿美(ポプラ社)

中世のヴェネツィアを舞台にした小説で、日本人作家によるこんな作品はあまり記憶がなく、とても面白く読みました。この時代のヨーロッパの雰囲気は、ファンタジーアニメにあるような世界観を思い浮かべながら、しかし物語は作曲家のヴィヴァルディにまつわる話で、歴史をふまえた重厚さとミステリアスな人のつながりが深みへと誘ってくれます。

教会の慈善施設であるピエタ、そこで育てられた捨て子たちの数十年にわたる人生、そこで奏でられる音楽に関わった人たちの想い、身分の違いと役割の違い、そこで生まれた1枚の楽譜の行方。大きな事件があるわけではないけれど、人の身に起こることは本人にとっては大きな事件だから、読んでいて引き込まれ感動するのです。

主人公をはじめとして女性たちの物語ですが、みんな中年から老年にさしかかっている、けれど強い意志を持って歩いている姿が若々しい魅力を感じさせてくれました。彼女たちの若い時分を描いたら、こんな深みのある作品にはならないだろうということが意外な発見ですし、初読の作家でしたが書き手の力量あってのことだと思います。

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