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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「立川忍びより」仁木英之(角川書店)

最近の仁木作品はちょっと重苦しい感が多いような気がしていましたが、本作は、忍者、アイドル、ヴァンパイア、料理…歴史的な味付けも多少あって、舞台も作者の地元である立川と、作者自身の趣味を全開に楽しんで書いたように思える小説でした。

主人公は僕僕先生の王弁くん的な人の良さが印象的、ヒロインは謎の多い美少女で、お義母さんはもっと怪しいけれど妖しい可愛さがあり、そんなマンガ的なキャラの立った人物たちが、お互いの情や家とのつながりとか、自分らしい生き方とか、鬱屈した特殊な状況の中でもひとり一人の想いがあると、元気づけてくれる物語です。

いくつか辻褄のわからないところもありましたが、そこは流れで気にせずに読んでおくとして。生死をかけて闘うような緊迫感は望みませんが、忍者という設定からすれば、もう少しアクションシーンが厚く描かれていると、もっと面白くなったようには思います。この続編はないでしょうが、また作者の忍者アクションものは読みたいものです。

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「横浜駅SF」柞刈湯葉(カドカワBOOKS)


本屋の棚で見かけて、カバーに書かれたプロットを読んで、どうにも気になって3分悩んで買った本。読みはじめは体調のせいもあり眠くなってなかなか捗りませんでしたが、話が進むにつれて(女性キャラも出たあたりからか…)どんどん面白くなっていき、読後はこの本に出会えて良かったと思っています。

鉄道パロディ的なもっと軽いノリの話かと想像していたのとは違い、かなり本格的な味わいの小説です。日本の本州全体が横浜駅に飲み込まれているとか、突拍子もないストーリーでも、SFならもっととんでもない設定はあるでしょう。しかし私にとっては、身近な横浜駅が…なんとも妙な気分になるのでした。

不条理な体制へのレジスタンスとか、生き方を見つけるひとり旅とか、いろいろとテーマは見つかりますが、構築されている世界観が緻密で、その中で生きてきた人物たちならではの考え方が興味深く、科学的なバックボーンも感じられる物語自体の面白さが秀逸です。作者は生物学者とか、怪物のような横浜駅のどこかリアルな生態の不気味さになるほどと。主人公たちに感情移入しにくいのも、今の私たちとまったく違う世界に生きているのだから当然と、むしろ納得できたのでした。
 
紅二点、ケイハは天才科学者だけど背負ってきたものが大きい女性、ハイクンテレケはアンドロイドだけど無垢な心がかわいい少女。ふたりの存在が色気とは離れているけれど、無機的な話に彩りを添えていて印象に残ります。 田中達之氏による表紙と各章トビラの精密なイラストもこの作品に合っていて、このあたりはさすがカドカワ、なのかも…。ネットで見ましたが、コミカライズも感じでした。第1回カクヨムSF部門大賞受賞作として個性が強く、良い方向性ができたのではないかと思います。

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「桜風堂ものがたり」村山早紀(PHP研究所)

書店を舞台にした小説、1冊の本との出会いを演出してくれる場所でもある書店。そこで働く人たちの意識、想い。本屋さんって身近なようでいてその内実は知らないことが多いのだなと、興味深く読みました。

現実的でいて少しファンタジックな雰囲気があるのは、ネコやオウムも含めて登場人物たちの性格もありますが、ネットでつながったバーチャルな関係が絡んでいるからかもしれません。遠いところにいるのに近く感じる人、すぐ近くにいるのに気付かない人など、現実の距離とのズレが物語に浮揚感を生み出しているようで面白いです。

これは居場所を見つける物語。ただの場所だけでなく、そこには生きてきた履歴があり、人と人の間で生まれる想いがあり、好きな本への仕事を通じた情熱があり、やっと出会うべくして出逢う居場所だから、読んで優しい気持ちになりました。特別に好きになる登場人物はいませんでしたが、みんなを優しく見守りたいと思いました。

2017年本屋大賞のノミネート作になっていますが、書店員に支持されるのは当然でしょう、ただこれが大賞を取ってしまうのは違うだろうなとも思います。今年は珍しくこの作品と「ツバキ文具店」と2つのノミネート作を読んでいますので、受賞の行方が気になるところではあります。

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表紙をまとめて見ると千里が主人公のようですが、6人の小学生たちの気持ちがみんな丁寧に書かれているシリーズです。

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「シロガラス 1 パワー・ストーン」

小学生たちが主人公の児童文学、というには少し大人びた中学生くらいの印象のある小説です。小学生らしい出来事なんですが、考え方がけっこうしっかりしているし、6人の少年少女たちのキャラがはっきりしているせいでしょう。私が小学生の頃って、もっとぼんやりしてた気がするのです。においとか温度とか、そんな感覚で生きてた気がするけれど、自然いっぱいの田舎町を舞台にしたこの小説にも、そこは懐かしく描かれています。
物語は古武道と神社、伝統芸能とビジュアル系バンド、宇宙科学、オシャレ、泣き虫、イジメ、など盛りだくさんな要素が絡み合い、読んでいて深夜の良質なアニメを見ているような、作り込まれたおもしろさを感じました。これは作者も楽しんで書いているのだろうと思わされます。
ラストはなにが起こったの、という引きで2巻に続くでしたが、佐藤多佳子さんなら期待は裏切らないだろうと思いますので、この後が楽しみな作品です。読み始めた時点ですでに4巻まで出ていたので、いつでも続きに行けるのがよいです。

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「シロガラス 2 めざめ」
「シロガラス 3 ただいま稽古中」

2巻と3巻を続けて読みましたが、目覚めた能力に戸惑いつつも向き合っていく子どもたちの姿が、丁寧に描かれていて好感が持てます。大きな事件は起きなくても、小学生にとっては我が身に降りかかった事態そのものが大変なことだと、児童文学をたくさん書いてきた作者ならではの視点に温かさを感じました。
6人の子どもたちがそれぞれ考え行動している個性が、ステロタイプに陥らずに書かれているのがとても良くて、誰かに共感するというよりは大人目線で愛しく見守りたくなります。特別に思い入れ強く描かれている主人公はなくて、みんな長所と短所があるけれど、次第に仲間としての絆ができて認め合える関係になってきたところがステキです。
少しずついろいろな謎が明らかになってきますが、本当の展開はまだこれから。長くなりそうですが、どんな物語になるのか楽しみです。
ところで物語の舞台が気になりました。大船のホームセンターへ買い物に行くくだりが出てきますが、私の家のすぐ近所なのです。町名や神社は架空としても、大きな街としては横浜より鎌倉が近い、藤沢ではなく大船のホームセンターまでバスと電車を使って1時間近く、海の近くではなく山のある町。横須賀線の逗子〜横須賀の間あたりと思って地図を眺めていたら、巻頭の地図とほぼ合う場所を発見しました…知っている場所が出てくると、より愛着がわいてイメージが膨らみます。

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「シロガラス 4 お神楽の夜へ」

あいかわらず、6人の気持ちを偏らず丁寧に大切に書かれているのがとても良いなと思います。こんな作品はあまりないかもしれません。周りの大人たちが見守る心を持っているのも安心感があるのです。なかなか主役にはならないようなタイプの有紗まで、ずいぶんと魅力的になってきました。
6人の心が打ち解け合うのは必然という、不思議で刺激的なできごとが重なった上で祭りの日を迎え、舞われた子ども神楽は感動的でした。雅楽の響き、振りに合わせて翻る衣、打ち交わされる木刀の軌跡など、鮮やかに思い浮かぶような描写も美しかった。スペクタクルではないけれど、まさにここまでの物語を集大成する静かなクライマックスでした。

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1巻から4巻まで、あまり間をおかず一気に読めたので、忘れることなく楽しめました。刊行からすでに1年以上経っているので、5巻もそんなに待たずに出てくれるでしょうか、物語も神楽が終わってまずは一区切りというところ。不穏な気配が漂ってきて、この後はいよいよ能力を使う必要性が出てきそうですので、6人の強い絆で乗り切る熱い展開に期待です。

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「ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜」三上 延(メディアワークス文庫)

ついに最終巻です。私にとってはド地元が舞台で、魅力的なヒロインで、本にまつわるミステリアスでインテリジェンスな物語ということから、楽しみに読み始めたシリーズでした。昨秋に鎌倉文学館の特別展を見て最初からの記憶も少しよみがえっていたのは良かったです。

登場するのが異常な人物ばかりというような作品、この巻で出てきた古物商のじいさんも極めつけな性悪でした。それ以上に異常なのがヒロインの母親ですが…その血を引いている栞子さんもまた同様。私はだんだん惹かれなくなって(逆に引いて)いきましたが、美しいけれど大きな欠点のある彼女に、いつもそばにいる主人公大輔くんが魅かれてしまうのはわかります。二人であることに救いと希望があるのでしょう。

最後に取り上げられた古書がシェイクスピアだったのは、有無を言わせないラスボス感がある選択でした。これ以上に有名な外国の作家は…思いつきません。長い年月の中でたくさんの人生が絡み合い、大金までも絡み、シェイクスピアの書いたセリフとともに明かされていくドラマ、すべての物語がこの古書に帰結していくのも、読んでいてスリルのある感覚でした。これまでの古書にまつわるいくつもの事件を凌駕する、本人たちのラストエピソードです。

それにしても、本の虜になってしまった人たちですが、好きなものを集めるコレクターでなく、商材として取り引きする対象であることが、最終巻では強く示されていました。何十年も追いかけてやっと手に入れた稀覯本をすぐさま売ってしまうのは、単純に本好きという私たち読書家にとって、少し理解し難いところがあるような。なのに本への知識と執着でいっぱいの栞子一族に感じる不気味な違和感は、そこから来るのでしょう。

けれど最後は、恋人たちの想いが結ばれて、母娘の確執も少しだけ解けたようで、読後感は悪くない充足した終わり方でした。フラワーセンターや大船観音など、身近な場所が出てくると嬉しいものです。本編は終わりですが番外編が書かれるようで、この一族の中でまっとうな妹メインの話を待ちたいなと思います。

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