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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「朱の記憶 亀倉雄策伝」馬場マコト(日経BP社)

戦争と広告3部作に続く、馬場さんの業界人評伝小説。タイトルの「朱」とは、1964年東京オリンピックのエンブレムのこと、それをデザインした亀倉氏の生涯が描かれています。何年か掛かりの労作と思いますが、次の東京オリンピックマークの模倣騒動などがあったタイミングでの上梓は、思ってもないことだったでしょう。

それについては、後書きで触れられています。100人以上もの活躍しているデザイナーが参加したコンペで選ばれたのが、あの作品しかなかったこと、それはそもそも、2020年東京オリンピックを開催する核心が空洞で、誘致した国に戦略も想いもないから、創造的なデザインなどしようがないのだと。まさに、馬場さんならではの辛辣な想いでありました。

その馬場さんとは、何度かマンション広告の仕事を一緒にさせてもらったことがあります。コピーライターとして広告に携わりながらも、この業界のクリエイターにほとんど興味のない私にとっては、唯一といって尊敬している先輩なのです。

亀倉氏のことも、本作を読むことであのマークもこのポスターもあの商品も、みんなこの人がデザインしたのかと初めて知ったのでした。業界人に興味ないといいながら、やはり同じ世界で仕事をしている私にとって、天才クリエイターの仕事ぶりが描かれた物語は、非常に面白くて刺激を受けるものでありました。

戦前にデザイナーを志し、戦中には軍の仕事をしながら実力を身につけ、戦後は第一人者として活躍し、オリンピックや万博のエンブレムを残し、デザイナーの組織を作り、リクルート事件では経営陣として再建に関わり、生涯現役のまま82歳で亡くなるまでの、波瀾万丈な人物伝です。

それは同時に、今は社会経済、情報技術、企業のあり方も変化し、広告に求められることも厳しくなっている時代ですが、デザインが世の中をリードすることもできるという、いつもながら馬場さんならではの、後輩クリエイターたちへのメッセージと受け取りました。

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「オウリィと呼ばれたころ」(理論社)
「コロボックルに出会うまで」(偕成社)

コロボックルシリーズで知らない人のいないであろう童話作家、佐藤さとるの自伝的小説。「オウリィと呼ばれたころ」は戦中から戦後すぐの少年期、「コロボックルに出会うまで」は戦後復興期の青年時代について書かれていて、この2作の前に読んでいた、作者の父親についての評伝「海の志願兵(偕成社)」も合わせて3連作ととらえました。ただし、出版社も主人公の人称表現も違い、それぞれのコンセプトも異なる別作品でもあります。

小学4年生でコロボックルシリーズに出会い、強く影響を受けた私にとって、作者は雲の上のあこがれの人なのですが、実は子どもの頃に会える機会があったのです。同じ戸塚区に住んでいて、教師をしていたこともあり(その頃のことがコロボックル〜に書かれています)、やはり中学校教師だった私の父の同僚から会いたければ紹介するよと言われ…でも内向的な子どもだった私は尻込みしてしまったのでした。もしかすると、生涯最初で最大の失敗だったかも…。

戦争が人の生き方にどれほどの影響を与えるかということを、いろいろな書物を通じて知らされるのですが、この2作は、少年時代の思い出として描かれていて、ことさら鮮やかな印象を与えてくれました。「オウリィ」での、戸塚から北海道まで疎開する道程の過酷さなどは、はじめて聞くような話。疎開も各人が勝手にして良いわけではなかったのだと、その中で生き延びていくことの大変さ。そうした中で、自分(と家族)を支えていた少年の姿が印象的でした。

「コロボックル〜」では、童話作家となるまでの紆余曲折がかかれています。師や仲間、伴侶との出会い、その中で長いことかけてコロボックルの物語を生み出すに至るまでの経緯が書かれています。今とは違う時代背景の中ですが、書くことへの想いというのは普遍のもの、想いの継続が名作を創り出したのだと思い知らされます。

戦争をはさんで厳しくも可能性の大きかった時代でもありますが、書きたいという気持ちが日々の暮らしで開くまでの物語は、作家を志す者の心に深く刺さるのでした。

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「真夜中の図書館」谷山浩子(ヤマハミュージックメディア)

古今東西の童話や小説、アニメやゲームに至るまで40作以上を取り上げ、感想や解説や評論でなく、その作品の世界観をシンガーソングライターであり作家でもある、我が敬愛する谷山さんが、幼少期に、大人の折々に、どのように関わり捉えてきたかが綴られています。

それはイラストレーターや絵本作家などを志す“講談社フェイマススクールズ”の受講者に向けて書かれた、創作者のための文章なのですが、谷山浩子というマルチな才能の成り立ちが明かされる著作でもありました。

誰でもが知っているような作品であっても、まったく引っかかりどころの違う感じ方をしたりするところが、国語の教科書的でない自由な発想があって面白いのです。創作者のインスピレーションにつながる心の大切な部分でもあります。

一編ごとにフェイマス出身のイラストレーターが描いた力作イラストが添えられており、ある作品について語られた文をさらに絵で表現するという三重構造になっているのも興味深い本でした。

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「魔神航路3」仁木英之(PHP文芸文庫)

ギリシア神話の世界に現代日本の若者たちが迷い込んでの英雄奇譚、前の2巻で登場人物も浸透していたので、ストーリーは流麗に進むようになりました。
仁木作品では「僕僕先生」、「海遊記」、「くるすの残光」などで航海シーンが出てきて、作者は船が好きなんだろうなと思いますが、旅を描く上でも陸路だけでない、船上の様子はアクセントになります。ただ、閉塞された空間だけに航海が長くなってくると停滞感もあり、それがストーリー上必要なことだったというのは、巻末の方で英雄が離脱するところでわかるのですが、読んでいて重くスカッとしない感じもありました。
そこは、仁木作品の体裁が一見ラノベ風なので、軽く読めるような気がして騙されてしまうからかもしれません。

この巻でも冒頭から魔女姫と魔法少女のコンビが出てきて、にんまりです。この辺がラノベ感全開でキャッチーですが、魔法少女という記号によって表そうとしていることがあるように思えます。
私にとってこの作品でいちばん印象的なのが、前巻で颯爽と登場した魔法少女の姿だったので、その記号性をここで分析してみよう、などと思っていたのですが…まだ手がかりも読み込みも少なくてまとまりませんでした。
この物語の魔法少女は、借り物の魔法を操る成人女性であり、つまりはコスプレの延長ですので、まさに記号ですが、サリーからマドマギまで、セラムンやプリキュアも含め、現代に生きる者にとっては、幼い女の子、お母さん、若い男性、50過ぎのおじさんと、それぞれに異なる意味合いを持つ疑似理想の記号かもしれないと思ったり。でもこの神話世界なら、きっと記号が実に変わっていくだろうと期待しています。

本筋では、絶対の力を持つ存在と思われたゼウスにも弱点があることが見えてきて、もとよりギリシャの神々は人間らしすぎるのですが、ドロドロした感情の渦巻く展開もありそうです。あとは、もっと双子にも活躍してもらいたいと思います。そういえば「双子」も、ある時期にアニメなどでは定番の記号となっていました。
ステロタイプにはめて見せながら独自の世界を展開する仁木作品、本作もまだ先が長そうですので、楽しませてもらいたいと思っています。

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「ちょうかい 未犯調査室」仁木英之(小学館)

警察組織の内でいろいろと問題のあるメンバーが集められ、犯罪を未然に防ぐことを目指して活動する犯罪史編纂室メンバーたちの話。新しい発想で、個々のキャラクターも立っていて、これまでに作者が描いてきたSFやオカルトや格闘技などの要素も取り入れられていて、もっと面白くなりそうなのに、なんかすっきりしない話でした。早々に続巻も出るようですし、まだ序盤といったところなのでしょうが、つかみ切れていないのが惜しい感じです。

ひとえに、ヒロインであるはずの室長が、なにかに取り憑かれてしまったようで、その半端ない魅力を半減させられていることに尽きるかもしれません。次の巻ではスッキリと立ち直ってほしいところですが、まだまだ謎も多いので、ちょっと鬱っぽい展開が続きそうな気がします。
それでも仁木作品のファンとして、期待をもって最後まで読み続けたいと思います。

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長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
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