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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「第二音楽室」佐藤多佳子(文春文庫)

学校を舞台に、音楽する少女を描いた短編集。鼓笛隊でピアニカを吹く小学生、音楽の授業でデュエットを歌う中学生、リコーダーカルテッドの中学生、軽音部でバンドをやる高校生。それぞれの年代の子どもたちの心情が、音楽という行為を通すことで際だっています。音を楽しみながら他人と接することで感じる、痛さ、甘さ、苦しさ、悲しさ…それを糧に確実に成長する年頃。実に清々しいと思うのは大人だからですが、切ない懐かしさを覚えます。

いずれも珠玉の4編の中でも印象深いのは、ラストの「裸樹」。一度傷ついた心が音楽をより所として自然に僅かずつ癒されていく姿、軽音部のバンドを中心に展開するドラマの中で主人公の痛みや不安が伝わってきたので、最後は感動的でした。
音楽を感じると言うことでは、「FOUR」が良かった。リコーダーの音が聴こえてくるような。他人とアンサンブルするというのは、音楽ならではのおもしろさだと思います。そこにまだ幼い恋心が絡んで、楽しい話になっておりました。

佐藤多佳子作品は、出るたびに読むというほどではなく、時々の出会いのように何冊か(それでも半数近いようです)読んできたのですが、いつも鮮烈な印象を与えてくれます。最初に刊行された「サマータイム」も音楽する少女の物語だったと思いますが、子どもが決して天真爛漫ではなく、悩み傷つく人間であると描くのが、二四年組からの少女漫画を読みあさっていたということもあるのか、とても共感できるのでした。

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「猫返し神社」山下洋輔(飛鳥新社)

その暴力的ともいえるほどのパワーとパッションあふれる演奏で世界のフリージャズ史に燦然と名を刻んできたピアニスト・山下洋輔の、デレデレな猫生活を綴ったブログをまとめた本。文章だけでなく写真もたくさんあるので、情景をリアルにイメージできます。
ふだんの洋輔氏はダンディーな姿、ピアノもパワーだけでなく繊細で煌びやかな演奏が同居する、二面性のある方ではありますが、ここまで猫の下僕生活を長年にわたって送られていたとは、さすがに驚愕でありました。

猫が大好き、でも自分の家で飼ったことがなく、猫との共棲に憧れ続けてきた私にとって、これほど猫の本性を教えてくれる本は貴重でした。飼いたいという気持ちが大きくなる一方、人と似て難しいものだなという不安も。生き物を飼うには、それ相応の覚悟が必要とはわかっているところですが、ただデレているだけのように見えながらも現実を突きつけてきます。
一匹ごとにまるで異なる個性、それを理解してつき合い方を変えながら、お互いの信頼関係を作り上げ維持していくのは、きっと楽しく幸せなことでありましょう。言葉や文化を共有する人間同士以上に、素直な気持ちで向き合わなければならないのでしょう。
猫とともに暮らしてきた人とそうでない人の人生には、明らかに違いがあるような気がします。それは自分の周りの人からも感じられることではありますが。

ジャズメンのことを米国では「キャッツ」と呼ぶというのははじめて知りましたが、気まぐれながらなにをやっても愛すべきこの生き物、ジャズのしなやかな即興精神にふさわしく、よくも呼んだものだと感心しました。
いかついサックスプレイヤーの林栄一もたくさんの猫たちに囲まれているということ、真剣な表情で吹く彼の時折見せる笑みが、そういえば猫っぽいと思ったり。

最後に、長年連れ添ってきた愛猫のひとりを亡くした洋輔氏が、猫本家の方に言われる言葉が印象的でした。また子猫が欲しいと考えたけれど、私たちの方が先に逝く可能性が大きいからやめた、ということ。
私も猫を飼うなら今しかないかと思うとともに、古希を超えられた洋輔氏のピアノも、今一度ライヴで聴いておかなければならないなぁと思うのでした。

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「ビブリア古書堂の事件手帖(5)〜栞子さんと繋がりの時〜」
三上 延(メディアワークス文庫)

物語が進み出して、不穏なミステリー色が増してきたというところ。初期のように古本への造詣と人間ドラマを気軽に楽しんでいれば良いという感じではなくなってきました。それが古本にまつわる事件にも、二人の恋にも密接に関わっているので、厚みになっているのは確かです。私があまりミステリー分野に馴染みがないので、少し戸惑っているというところです。
本巻で主に取り上げられた本は、彷書月刊は置いといて、手塚治虫と、寺山修司の作。

手塚の「ブラックジャック」をめぐる話は、10代(正確には中学3年)から様々なマンガを読みあさってきた私にとって、かなり身近なものでした。作中のコレクターは私よりも少し後輩になりますが…その世代が年輩者として描かれているのはちょっとショックが…、時代の雰囲気が懐かしさを感じさせます。
ただ、少年漫画、少女漫画、青年漫画など濫読してきた私ですが、手塚作品にはあまり触れてなくて、まともに読んだのは「三つ目がとおる」(全集版)くらい、すでに絵の古さや感性の違いで敬遠したのと、私のマイナー指向もあったのかもしれません。なので、「ブラックジャック」も子どもの頃に雑誌掲載の話をいくつか読んだ程度の記憶しかありませんでした。
この本を読んでも、漫画家としての姿勢や出版の事情などは興味深かったですが、あらためて「BJ」や手塚作品を読みたいという気にはならず。最後の謎である本を買った店のことも容易にわかってしまったので、ちょっと物足りない感はありました。栞子さんにも親友がいたんだということの方が、興味深かったという一話でした。

やはり20代の頃に小劇場演劇を観に通っていた私にとって、寺山修司というのも偉大な名前です。ですが、興味はあっても彼の著書も映画も演劇も見たことなく…。うまい出会いがなかったということでしょう。ちょっとしたタイミングが、人生を左右するものです。ビブリアでも、ちょっとしたタイミングによって事がはじまるような話が多いですね。古本屋というのは特に、その時に立ち寄った古本屋の棚にたまたまその本があったから買う、という一期一会の場所であるから当然のような気もします。
この章では、本の蘊蓄よりも寺山の作中に出てくる言葉が物語を深める印象的な道具として使われていた感じでした。はじめて、目的意識を持って本の謎解きに挑むという図式からも、転換点なのかもしれません。話も少しばかり後味の悪いものだったし、栞子お母さんの登場、そしてラストのできごと…とても不吉なムードで次巻に続いていきました。この展開で寺山修司を持ってきたというのも、計算尽くなのでしょう。

せっかくの栞子と大輔の接近も、動き出した物語の渦の中に飲み込まれてしまう、それは残念でもあり、楽しみでもあり。栞子さんがいかに母の呪縛から解かれ、自分の道を歩いて行けるかという主題が明確になってきたようです。その中で大輔くんの役割もとても大きくなるはずなので、ラブストーリーとしても展開も興味深く、見逃せないところです。
一番の謎は、お母さんがなにを考えて行動しているのかというところですが。これは最終巻までに明らかにされるのを待ちたいと思います。

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「しゃべれどもしゃべれども」佐藤多佳子(新潮社)の感想です。

15年前の作品ですが、家族の薦めを受けて読みました。作者の作品を読むのも久しぶりです。
落語とか、お茶とか、野球とか、日本文化のエッセンスが気取らず下世話に描かれているのが興味深く、琴線に触れてきます。囲碁漫画や茶の湯小説や将棋小説やカルタアニメなど、深いバックボーンがあると、余計に惹かれてしまう質で…。

ヒロインの黒猫さんも、現実には付き合いたくないタイプだけれど、その面倒な性格が物語の中ではとても魅力的でした。意固地な小学生である村林君も、親戚にいると困りますが愛しいキャラでした。

とはいっても、主人公のあふれる男気こそがこの小説の肝です。(映画化では国分太一が演じたようで、見てなくて申し訳ないですが随分イメージが違います)他人に対して短気にイラついたり、自分の芸のことで悩んだりもしますが、気っ風のよさが爽快で、こんな主人公にはなかなかお目にかかれないと思うのでした。

問題を抱えた面々が集い、かみ合わない関係の中で、物語的に見れば大変な事件があるわけではないけれど、自分にとっては一大事で、いつのまにか変わっていく。そうした機微が実によく書かれていて、しっかりと胸に落ちて感動させられる、お見事な小説でありました。

15年前(まだ前世紀だ)に書かれたということで、落語家もプロ野球選手も代替わりした今と雰囲気も違う気がして(枝雀も談志も亡く…スワローズ黄金期メンバーの宮本も引退し…)、この作品からは一昔前の薫りがしました。その懐かしい感じがまた良かったのかもしれません。

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「弦と響」小池昌代(光文社) を読みました。

弦楽四重奏団のラストコンサートを巡り、関わる様々な人…演奏者当人から、その妻や恋人、スタッフ、観客まで…の心模様を描いたオムニバス的な物語。と、いうような構成も知らずに、音楽小説ということに惹かれて買ってみた、初めて読む作者の小説は、いろんな面で新鮮な感じで楽しむことができました。

作者は詩人として活躍されてきた人だからでしょうか、言葉の紡ぎ方が丁寧なように思えました。そのせいか、次々に変わる主人公たちの等身大なドラマや想いも、淡々としていながらそれぞれに深く伝わってきます。

共感が強かった裏には、作者や作中の多くの人たちが、自分と近しい世代であるからだろうと思います。私もそんな歳になってしまったのだなぁと思うと、哀しさも感じながら、でもまだ先は長い、これから新しいステージが始まるんだという示唆を受けた気がして、読後感は良いものでした。

ライヴで聴くのはジャズが多くて、クラシックもたまに聴くけれど室内楽のコンサートには行ったことがなかったかもしれません。音楽自体の描写は少なかったですが、ベートーベンの弦楽四重奏曲が聴きたくなりました。ジャズでも、カルテットやトリオの演奏は、いちばん音楽家の力量や個性が際だつので、楽曲さえ好きなものならば楽しそうです。

もう一つ、劇場やライヴハウスといった場所が好きであちこち足を運んできた私にとって、カザルスホールに行くことなく今はもうないということが、とても寂しく感じられました。行ってみたい場所(特に古いところ)には、機会を作って行っておくこと。そこでなにを見たかということは忘れやすいけれど、場所の記憶というのは確かに残るのです。

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