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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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CHOPIN.jpg「いつまでもショパン」中山七里(宝島社)

ドビュッシー、ラフマニノフに続いて、著者の音楽ミステリーシリーズも、3作目となりました。ラフマニノフは主人公がバイオリニストでも、メインの曲はピアノコンチェルトでしたから、一貫してピアノ曲がモチーフになっています。そして今回はショパン、しかも舞台はショパンコンクールとくれば、もうピアノ描写しかありません。そして、いつもながらに音楽を言葉で表現するのが本当に上手な作家なので、終始頭の中にショパンの曲が鳴り響いていました…。

といいつつ、ショパンはある程度聴いていても、エチュードの何番、ワルツの何番、マズルカの何番…と言われて、あの曲だと思い描けるほどには覚えていないのが残念でした。全曲を頭の中で奏でられるのは、協奏曲1番とノクターンくらいなもので…その2曲がクライマックスに来ていたのは幸いでしたが、もう一度曲を把握した上で、ぜひ読み返したいと思っています。誰のピアノで聴くかが、かなり悩ましいかもしれませんが…うちのレコードで弾いているのは誰だっただろう?Youtubeで今は亡き巨匠たちの演奏すら見ながら聴くこともできる世ですので、聞き比べも楽しそうです。

音楽小説として読んでいるため、ミステリー成分については正直なところどうでもいいのですが、最後にわかった事件の犯人は意外でした。いろいろとミスリードさせるような複線も張られているので。事件自体が国家レベルのテロと大きく凄惨な描写もあったため、これまでの2作とはかなり趣も異なって、さらには戦場のファンタジーにさえなっていたのは、ちょっといきすぎな感もありましたが、音楽の力、というものを表現するにはたいへん面白かったと思います。

ショパンコンクールが舞台ということで、マンガ「ピアノの森」ともろにイメージがかぶります。各国コンテスタントたちのキャラクター付け、特に主人公のポーランド人少年。また、シチュエーションとして森の中での出会いや音楽学校の練習室のシーンなど。そのため、曲を文で表現することと、絵で表現することの違いがとてもよく浮かび上がっていたのも、興味深かったところです。

そして、辻井伸行をモデルにした日本人少年、彼の演奏への評価も面白く、いろいろと発見させられました。あまりにも実在の特定人物なので最初は戸惑いましたが、同じ曲でも演奏家によってピアニズムが異なり、まったく違う印象になるということを明確に示すことができたので、良かったかと思います。テレビで観たことしかないので、逆にCDで彼の奏でる音だけをじっくりと聴いてみたいと思いました。

3部作で終わりかもしれないと思わせるように、前2作の主人公たちも顔見せしていましたが、岬先生無双ぶりの痛快さは、これからも見たいものです。アクの強い音楽家たちの中で、ひとり優しく厳しく論理的に振る舞う彼の姿は爽やかです…が、実はそれが計算ずくであるという節も窺われるので、なかなかにくせ者。この巻でも主人公は岬ではありませんが、最後には彼の物語で締めてほしいと。

最後になりましたが、主人公であるポーランドの少年ピアニストが、様々な葛藤やしがらみを乗り越えて、最後に自分の音楽表現にいきつく、その中での心の成長ぶり(性格改善も)など、物語の王道路線の中で感動的に描かれていたと思います。その意味では、ミステリー要素が最後の感動に水を差してしまったともいえるのですが…青春小説というわけでもないので、良いのでしょう。一つの枠に収まらない多様な面白さを持つ作品でした。

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SENRIDEN.jpg「千里伝 乾坤の児」仁木英之(講談社)

最終巻…作者自らあとがきに記していたように、仁木作品は多く読んできましたが長編の完結はこれがはじめて。1冊ずつが厚く、また展開が大きくて密度も濃かったので、全4巻でも長編が終わったという満足感が大きな物語でした。デビュー作として未だに巻を重ねている「僕僕先生」シリーズも、きっとこんなふうに心に残る終わり方を迎えるだろうと、十分に期待させてくれます。

最初はまったくもってひどい性格の主人公・千里でしたが、多くの人(人外の者たちも含め)との激しい交流の中で立派に…とまではいかないけれども格段に成長した姿をみせてくれました。そんな千里が最後に求めた世界の在り様、というのがしっかりと納得できたのが、読後感の良さにつながっています。けっこう難しい着地点だったと思われるのですが、物語の積層の重みが生きていました。
キャラが立っているという仁木小説の魅力的な特徴がうまく発揮され、バソンも絶海も、空翼も麻姑も羽眠も、ほかたくさんの敵味方あわせた登場人物たちの想いが深く心にしみてきました。
ラスボスとの闘いが意外にあっけなかったけれど、敵を倒すカタルシスがテーマではなく、長い歴史に培われた中華的な創世期からの世界観の中における人々の生きざまがテーマですので、敵もまたその世界の一部として描かれたのは良かったかと思います。

強さを求める者たちの闘い、その中で生まれる友情、せつなくほのかな恋情、というような冒険活劇の体をとってはいても、人間の幸福を深いところで探っていこうとする仁木英之の思索が結ばれた作品だったと評価するところです。
やはり、こうした物語を描くには日本を舞台にするのでは小さすぎ、中国という、国の広さだけでなく古代から現在につながる歴史と思想の深淵さを含めたスケールの大きさがあってこそと思わされます。
そこから、小さくて世界の片隅にある存在である日本の真の姿に気づけば、逆に、結晶化されたような日本文化独自の美しさや価値観を再発見できるのです。

ところで、ちぇこ氏の描いた扉絵イラストがとても良かったと思います。章の前でなく後に挿れられているので、事前にネタバレすることなく自分のイメージで読んできた彼らの活躍を確認して納得できるという。それが、キャラクターのイメージだけでなく、背景の世界や装束、武具などもしっかり描かれていたので、違和感なく、さらに想像力をふくらませてもらえました。なかなか、ここまでのマッチングはないかと思います。
最後の最後の絵の笑顔が、感慨深く心に刺さりました。装丁も含め、本作りとしても、秀逸な作品だったと思います。

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「RDG6-レッドデータガール--星降る夜に願うこと」荻原規子
(カドカワ銀のさじシリーズ)

一人の少女の2年間の成長を描くには長かった物語も、いよいよ最終巻となりました。前の巻で大体の決着を見ていたので、本巻でも事件はありますが心の動きが中心となり、主人公・泉水子の成長ぶりがしっかり描かれていました。深雪もしかり。いろいろと謎だった背景も明かされて、十分な終章だったと思いました。

陰陽師サイドの不気味だった敵側人物たちも、人間らしい部分が描かれれば魅力的で、みんな仲良くの展開がほっとします。なんだかんだで、高柳が一番おもしろいキャラだったような。
実のところ、泉水子はちょっと愛しきれないヒロインでした。古風なようでいて、やけに浮ついているところがバランス悪く感じられたせいでしょう。それが珍しく、貴重な作品になっていたとも言えます。ルームメイトの真響も自己中すぎてイマイチ、そうなってくると、やはり真ヒロインは姫神だったということで、終盤の出番のなさが物足りなく感じられます。RDGはこれで終わりですので、姫神の物語が読みたいと思ったり。

本作はなにより、日本の歴史・風俗・宗教観といったことが、保守的にならず描かれたのが興味深いところでした。たぶん作者の中ではもっともっと世界が広がっているのでしょうが、作品としてはその一部が出たにすぎないように感じられます。結局、人間の世界遺産とはなにか、もう少し踏み込んで表現してもらいたかったかも。
どうも、この作品は毎々楽しみに読んだ割には、感想を書き難いのが、自分でも不思議です。

さて、読む前に驚いたのが帯にあったテレビアニメ化の告知。悪い予感は、作者の「西の善き魔女」アニメ化がちょっと…だったからですが、今回はスタッフも良さそうで期待です。
昔だったら、好きなマンガや小説のアニメ化はイメージとの乖離が大きくて歓迎しなかったのですが…今のアニメは声優さんが上手いし、演出や構成は凝っているし、作画も大きく崩れることなく、原作の魅力が出せるのかは難易度高そうな気はしますが、こちらはこちらで楽しめる作品になれば良いと思います。

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「友達からお願いします」清水マリコ(MF文庫J)61PZiamQmJL._SL500_AA300_.jpg

その昔、清水マリコが主宰していた劇団「少女童話」の旗揚げ公演でファンになり、芝居と映画とを何作か観に行った私。彼女が小説を書いていると知ったのはここ数年のことですが、アダルトゲーム原作の作品以外はだいたい読んできましたので、久しぶりの作者オリジナル作品は嬉しいところです。

ゲームやアニメのノベライズも手がける作者のこと、現代風の萌えツボはしっかり押さえているのですが、キャラクターが記号化されきってないというか、少年少女たちの思春期の感情がかなり生っぽく発露されるので、ライトノベルというよりは、少女漫画的というべきでしょうか。そこに気恥ずかしさを感じながらも、しっかりした読み応えがあると思います。
エキセントリックな美少女ヒロインと、目立たない系の男子の、日常を描きながらもどこか幻想的な不穏さをはらんだストーリー展開というパターンがありますが、本作は日常性を前面に出した話で、ヒロインも変わり者だけれどそんなにミステリアスではない、いつもより平凡な話のように思えます。けれど、描かれるできごとに起こり得るリアリティが強い分、素直に読者の感情を揺すってくるので、地味とか薄いとかいう感じではありませんでした。最後の真犯人はミスリードされて意表つかれましたが、良い意味で。

なにはともあれ、こうした作品はヒロインの魅力に掛かってくるわけですが…。キャラクターを立てていくと、ある種の人格障害のレベルにまでなってくる、そのギリギリの辺りで線をどこに引くのかが重要な気がします。メインヒロインの田中も、サブヒロインの水森や江川も、ちょっと一線を超えたところくらい。
田中がなぜにこうも自虐的なのかは、過去が描かれていないので性格的な欠陥としか見ることができませんが、残念さの中に見せるかわいらしさが強い印象を残してくれました。他の二人も然り、主人公の楓少年はちょっと情けないけれど…続編があるようですので、彼女たちの濃いキャラを発揮する急展開に期待したいと思います。

最後に、ライトノベルの特徴である挿し絵ですが、熊虎たつみの描く絵はちょっとエロすぎな感じが…。直接的に裸など描いているわけではありませんが、小説読まないで挿し絵だけ見ていったら、ぜんぜん違う中身を想像してしまうように狙っているのでしょう。
まぁ、思春期男子の主人公ファクターで描いたイラストとして、小説の内容から逸脱はしてないとも思いますが、これまでよく組んでいたTOI-8の絵と比べてしまって。でも学園青春ちょい痛ラブコメとしては正解なのでしょう、ラノベ戦略の面白さを感じました。


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「従軍歌謡慰問団」馬場マコト(白水社)の感想です。51UUX-VFlAL.jpg

最近は仕事をご一緒する機会がなく残念なのですが、馬場マコトさんから刊行お知らせのメールが届くのはありがたいことであります。いち早く読むことができました。
戦前〜戦中の業界を描いた3部作の締めとなる本書は、広告・出版界を舞台にした前2作、広告業界を舞台にした「戦争と広告」、出版界を描いた「花森安治の青春」に比べ、芸能界のはなしなので一般の人にもわかりやすいかと、そして一貫している反戦のメッセージ性も、より強いものになっていたと思います。
前2作の積み重ねがあっての本作となりますが、その労はかなりのものであったと推察されます。あとがきにもありましたが、資料に当たるだけでなく実際に日本軍が侵攻した中国本土や南方の島々まで旅しての著作は、作業の困難さだけでなく思い入れも強くなるでしょう、情景の情動のリアリティを感じさせてくれます。

戦時の音楽というテーマ以前に、レコード業界や歌謡界の草創期を描いた物語としてもたいへん興味深い作でした。
主人公の一人である藤山一郎は、私も子供の頃に親の見ているナツメロのテレビ番組に出ていた姿をよく覚えていますが、あの頃60代だった藤山の歌に歳をとってもしっかりとした声だなぁと思ったものでした。その記憶があるおかげで本作には入り込みやすかったのですが、彼が、そして他の歌手や私でも知っている歌の数々をつくった作曲家や作詞家たちが、ここまで熱い想いで戦争に直接かかわり人々を鼓舞していたという事実が、衝撃的でした。
作中に登場する歌の数々もいまはYouTubeで聴くことができますので、いくつか聴いてみました。タイトルは有名でも知らない曲がけっこうあって、また、藤山一郎の若い頃の歌声もテレビで聴いた歳とってからのとは違う色気があったり、演奏も郷愁的ではありますがあまり古くささを感じずよくできていたりと、ちょっとはまってしまいそうな世界です。

馬場さんは、実際に出兵した父親のことを頭にこのテーマで書かれたようですが、私も読むにあたって亡き父のことを思います。父はまだ召集される年代ではなく、学徒動員で軍需工場で働いた程度でしたが、のちに学校の先生となり当然ながら教組に所属し、また趣味はクラシック音楽を聴くことだったのに、歌えるのは軍歌と君が代だけという人でした。子供時代にそれしか聴いていなかったのだから仕方ありません、それしか世に出せなかった時があったということです。それが本書に描かれている時代です。

ラストに、本作の登場人物たちのその後が記されていますが、唯一没年がない森光子がこの本の刊行直前に亡くなったことで、本当にあの戦争が過去の歴史になってしまった感があります。
馬場さんも、私の父にしても、戦場を知らない世代です。やたらと勇ましいことを言って隣国を挑発する元都知事のような爺にしても然り、戦争を知らない人間の無責任な発言でしかありません。自虐史観とか屁理屈をこねて事実をなかったことにし、あまっさえ被害国を悪者にするような思考の持ち主が増えているように感じられる昨今、かつての過ちを繰り返さないこと。それは今を生きる一人一人の責任なのだと気付かなければなりません。

と、重く大切に考えさせられるテーマはありますが、読み物としての面白さも十分な本作。歌が人に与える影響力の大きさには興奮させられましたし、実在の登場人物たちの活躍し苦悩する姿は人間ドラマとして胸に迫ります。戦時でも音楽家としての魂を発揮し続けヒットを追求めてしまう業の深さにも人間味を感じました。
そして、終戦を迎えた後も帰還までの1年近い時間を極限状態のなかにおかれながら、歌う将校として使命を果たした藤山一郎の姿には戦慄を覚え、涙も禁じ得ませんでした。3部作の最後を飾る感動的なクライマックスとなりました。

前2作はほとんど国内におけるクリエイター事情でしたが、本作は前線の状況が描かれた分、戦争の怖さや悲惨さが強く伝わってきました。
戦争はしてはいけない。それは、絶対的な真理として誰もが心に刻んでおかなければならないこと。いかなる理由があっても、戦争を仕掛けてはいけない。受けてもいけない。もちろん、日本だけがではなく、世界中の国が、です。そうした世の中こそ目指さなければならない、そろそろ人間も、そういう境地に入れるはずだと信じたい。
もしも戦争が起きたら誰もが否応なく加担してしまう、歴史をふまえてのそんな馬場さんの不安が杞憂であるよう、想いはしっかり次の世代その次の世代へと継いでいかなければならないのです。


過去ブログ「花森安治の青春」の感想


 

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