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「魔神航路 2 伝説の巨人」仁木英之(PHP文芸文庫)


現代の若者たちが、古代ギリシャに飛ばされ神々と融合しての冒険譚、第2段です。まだあと2〜3巻…は続きそう、もっと長編にもできそうな感じです。

1巻の方がインパクトはあったかもしれませんが、話としてはこの2巻の方が好きでした。現代日本に飛ばされていた魔神がすっかり楽しんでサブカルチャーを吸収してきたというのが可笑しいし、出番は少ないけれどたぶんヒロインな二十歳の子は魔法少女に変身して活躍するし…そんな展開がシリアスな物語の中に魅力的な彩りを与えていました。

クライマックスシーンがやや淡泊なのは物足りない、設定的にももっと派手な作品になっても良い感はありますが、まだ、ギリシャ神話に遠慮してるのかもしれません。融合が進むことで、少しずつリミッターがはずれていき、めちゃくちゃな展開になることを期待して待ちたいと思います。ただ、ギリシャ神話というのがもともと、かなりひどい話が多いですから…挑戦だと思います。

日本の若者たちよりもギリシャの神や英雄の方がキャラも濃いので目立ってしまっていましたが、男女比的にも、巻が進めばロマンティックなドラマだって生まれてくることでしょう。

それにしても魔法使いお姫様と魔法少女は良かった。地味だけれど双子娘も少しだけ片鱗を見せたけどそれぞれの個性が出てくるともっとステキになるでしょう。テューポーンは、少女の姿をしてるとは言いながら、どうも女の子には思えず…アニメ化でもされたら、すごく萌えるキャラになるのでしょうが。

今後の期待という観点ばかり書いてますが、巨人や王妃の悲話として読み応えのある小説でした。

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「雨ニモマケズ」司修(偕成社)amenimo_.jpg

司修ファンとしての贔屓目でなくとも、これは素晴らしい本だと思います。宮沢賢治の有名な詩の1行ごとにペン画を添える、その絵が言葉をじっくりと噛みしめます。
詩の時にも一文ごとが際だっている作品ですが、絵がはさまれていくことで、言葉の持っている力あ驚くほど広がっていきます。

言葉をどのように解釈して絵にするのか、それは司修の想いであって、まったく肯定できない人もいるでしょうが、しかしこの絵は不気味さもあるけれど愛らしく、洗練されていながらも泥臭く、デザインのようで絵画である、司修ならではの世界であって普遍的なものを感じさせる絵でした。
1枚ずつの絵には、人だったり猫だったり熊だったりが描かれ、言葉の想いを表情豊かに表していきます。ペン画に塗り絵をしてくださいと書かれていましたが、このまま本のページを切り取って壁一面に飾りたいと思ったりしました。

奇しくも富田勲が雨にもまけずの音楽化に取り組んだということをドキュメンタリー番組でみましたが、この詩を自分のなかで噛み砕き表現するというのは、人生を重ねないと無理ということでしょうか…
いや、30代で亡くなった賢治の作ですから、人生の積み重ねの問題ではないかもしれませんが、今回、この本で改めて読んだ詩に、人間の生き方の変わることない本質を感じたのは確かです。

司修は以前にも賢治をモチーフにしたコラージュ作品の本「賢治の手帳」を出していましたが、本作ではずっとその本質に迫った感じがしました。
簡単に読めるけれどあまりにも奥深い、これから何度も読み返すだろう本であり、値段の手軽さもあるし誰かにプレゼントしたくなる本です。

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「たまさか人形堂それから」津原泰水(文藝春秋)tamasaka2_.jpg

前巻から間を空けずに読んだので、それまでの展開を忘れることもなく、楽しむことができました。前巻がややミステリー調だったのに比べ、本巻はもう少し日常系になった感じです。電車の中で読んでいて、笑いをこらえきれなかったところも3カ所ほどあったくらい、作品としてこなれてきた感じです。

登場する人形はリカちゃん、創作アート、蛸のぬいぐるみ、チャシャ猫のぬいぐるみ、ボルト、マリオネット、市松、マネキン、木目込みなど。髪の伸びる市松人形はミステリアスでしたが、ほかは前巻より人形の幻想性に寄った話ではなく、人間が主体の展開が多くなっていました。
とはいっても、伝統工芸品としての人形、大量生産品としての人形、表現芸術としての人形、実用品としての人形と、取り上げるのは実に多彩です。しかしどれも人形である、その奥深さと関わる人間の心が絡み合って作られる物語の妙味が見事でした。

主人公の女性が、性格も見た目も変わったわけではないのにモテていましたが、現実的な視点で見ればけっこう魅力的な人物かもしれません。前巻からの登場人物たちの内面が深まったこともありますが、表面的なキャラクター付けでなく、抱えている業というようなところで個性が強い人が多く、人間同士、人間と人形という関係の中でドラマがふくらんでいくのです。
最終章の展開にはちょっと驚きましたが、これは幻想小説作家の本領発揮というところ。しかしこのラストは、完結を意味するのでしょうか。人間たちの関係性は収まっていないし、まだまだ続編が読みたいと思うのですが、さて…。

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「たまさか人形堂物語」津原泰水(文藝春秋)tamasaka1_.jpg

この続巻が本屋の新刊棚に並んでいたのを見て面白そうだと思い、まずは先の巻を手に入れました。この作者を読むのは「ブラバン」「バレエ・メカニック」に続いて3作目となりますが、いちばん読みやすくストレートに面白い1冊でした。
人形というテーマが私にとってはとても魅力的で、いろいろな人形にまつわる物語というのはこたえられないものです。熊のぬいぐるみ、チェコの人形劇、ラブドール、文楽人形、村上の古雛、青い目の人形、話のなかには大好きな(一緒に写真も撮ってもらった)プリンプリンも出てきて、悦ばしいことこの上なく。
幻想小説のカテゴリーで活躍してきた津原泰水の作風は明るいものではなく、殺人がらみなど陰鬱な雰囲気もあるのですが、ラストは前向きで楽しめる小説でした。人形というものは愛らしくも不気味な、心に幻想を掻き立てるものでありましょう、あえて小説としての世界観を構築することなくとも、人形が動いたり喋ったりすることがなくても、そのまま幻想的な小説となり得るのかもしれません。

人形もさることながら、物語を面白くしているのは登場人物の魅力でもあります。祖父から老舗の人形店を受け継いだ女性、従業員の人形職人2人、ラブドール制作会社の職人社長、資産家のコレクター…、癖の強い人たちと人形が絡み合えば、いくらでも話が創れそうです。数年経ったとはいえ、2巻目が書かれ刊行されたのは必然でありましょう。
あえて主人公を三十路の独身女性にしたところが、ライトノベルと違う方向での面白さになります。物語的には「ビブリア古書堂の事件簿」な感じなのですが、古書を出汁にした若くて美しくてミステリアスなヒロインとのロマンスにならず、人形を主体にしたストーリーの中でちょっとくたびれたヒロイン?が右往左往する現実(非ロマン)という面白さです。いや、まったく魅力がないわけではなく、情の深い愛すべきヒロインではありますが。
とにかく面白かったため、この感想を書き上げる前に続巻を手に入れて読了してしまいましたので、感想の続きもそちらに記そうと思います。

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「撲撲少年」仁木英之(角川書店)bokubokushonen_.jpg

数多く読んできた仁木作品の中でも、素直に面白かった作品です。「撲撲」ってタイトルが、「僕僕先生」シリーズをミスリードさせる釣りじゃない?と思わせますが、しっかり中身に合っています。撲るより組み系じゃん、とか、二十歳超えてるのに少年なの、とかのツッコミどころは置いといて…。
痛さ・苦しさがよく伝わる格闘技のテクニカルな描写と、それにのめりこんでいく人物の心情描写、それをまとめる時間軸を持った物語がバランスよく書かれていて面白さになっています。長編の多い作者なので、つづく、とならないか心配しましたが…しっかり1巻にまとめ上げられていました。

描かれているのは総合格闘技、ある意味で一般人にとっては理解しにくい、現代物であって歴史物にも通ずるような異世界かもしれません。私にとっては、生で見に行ってたUWF、初期の修斗(当時はシューティング)から、パンクラスやリングス、テレビ放映が楽しみだったプライドやヒーローズと追いかけてきただけに、また余興とはいえ強い人間と闘った経験もあるだけに、細かいところまで深く共感できる物語となっていました。そして、現在の挌闘技界の状況がよくわかるのも興味深いところです。
総合格闘技作品といえば、刊行中のマンガ「オールラウンダー廻」も競技をリアルに追求していて、本作と似ている部分も多いですが、撲撲のドロドロとした人間感情が渦巻くドラマは、昔のボクシング漫画的と思えます。スポーツ主題の作品を読むと思うのですが、実のところは勝敗に向けてエゴとエゴがぶつかり合う、あまり爽やかなものではない、のかもしれません。

格闘技の要素を取り去ってみたならば、岐路に立つ主人公と鬱屈した幼なじみの暗い話ですが、主人公は挫折しているようでいながらかなり恵まれた条件が与えられていて、普通の人といいながら体力や才能もそれなりにあって、ヒロインは美しくやることに理解があって、ラストの展開で主人公が逃げ出すなんてあり得ないだろ、と思ったりもしますが、そこが総合格闘技という特殊なワンダーランドにかかると、なんとなく収まってしまう気がするので不思議です。
爽やかな、とは言い難いですが、最後にはすっきりする青春小説とは言えるでしょう。格闘家だけでなく、病院から出られないアルピニストとか、カレー屋のおばちゃんたちの魅力も大きかったと思います。

作者が空手をやっていたことは知ってましたが、本作を書くにあたってどれだけ総合格闘技を取材し、実地体験したかも伺い知ることができます。かつてリングスなどでの活躍を見ていた(そして作中人物のモデルにもなっている)高阪剛が帯で推薦しているように、なかなか他にないような格闘技小説でした。

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