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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「静おばあちゃんにおまかせ」中山七里(文藝春秋)を読了。25227772_1.jpg

作者の小説はこれが3作目、音楽もの「ドビュッシー」「ラフマニノフ」以外では初めて読む作品となりました。基本、ミステリーだから読むという嗜好がないので、音楽がらみの事件とか、本作のように女子大生とそのおばあちゃんが事件を解くとか、そうしたドラマ的に惹かれる部分がないと手に取らないわけですが、期待通りにヒロインが魅力的だったので、楽しんで読むことができました。
そんなミステリー素人の私でも、最後の事件の謎は読めてしまいましたが…そうしたことはあまり関係なく、ヒロインとともに主人公の青年刑事も意外に好感のもてる人間だったので、4つの難事件を解決していきながら二人の関係の深まりを中心とした物語として、最後までしっかりと構成されていたと思います。
法曹の世界に対する作者の考えから、親族間の問題、宗教問題、外国人問題、国政問題、そして冤罪の問題と、実はやば目の題材を取り上げながら社会的な正義感がよく出ていて、説教臭い感はありますがその説教をおばあちゃんにさせるということで納得させられます。そこも作者の話作りの上手なところでしょう。そして最後、おばあちゃんの意外な正体へとつながっていきます。

ヒロイン・円が魅力的だったと書きましたが、美人だけれども実際のところは、若い娘特有の浅はかなさやだらしないところもあるし、お嬢様なようでも好奇心旺盛で行動力もある、少しキャラクターとしてはちぐはぐさが感じられました。自分だったら惚れるかなというと微妙な、でも主人公の刑事とのカップリングは確かに絶妙な感じ。二人一組で、好感度の高いキャラクターになっていたと思います。
おばあちゃん・静のキャラクターは、意外なほどにかわいげなくて驚きましたが、元裁判官の厳格さと、孫への愛情と憐憫、そして実の正体を知れば、そういうことかと。物語のラストを強く印象づけてくれる存在でした。
これはミステリー作品なので、話に関係のないシーンはあまり描かれていないのですが、もう少し円と学校の友達の会話とか、人物像をふくらませるところがあったら、もっと面白かった気もします。本作はシリーズで続くことはないのでしょうが、どこかでまた、この二人を見てみたいものです。


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41unBUcL4WL._SX230_.jpg「コロボックル」シリーズなどで子どもの頃から大好きだった佐藤さとるが、自分の父の半生を書いた伝記小説「海の志願兵」佐藤さとる(偕成社)。
岐阜に生まれ、家族とともに幼少期に北海道へ渡り、貧困の中でも学業優秀だったので海軍に志願し、合格して横須賀の兵学校で学び、やがて軍人として順調に階級を上げながら、文学や絵画を趣味とし、結婚して子どもも授かり、士官になった頃までが描かれています。

軍隊とか自衛隊とかには嫌悪感しかない私ですが、日露戦争から約10年後に入隊と、日本にとっては一番良い時期でもあったのでしょう、軍にいながらも平和な生活が綴られています。そもそも志願した動機も、将来の仕事のため電気について学びたいからであり、お国のために尽くすとか、軍人に憧れてとかいう気持ち悪い感情からでないのが良いのです。
出世争いとか、軍隊での暴力的な上下関係とかも描かれていません。実際には多少はあったのでしょうが、あえて描く必要もないというのが、児童文学作家である佐藤さとるの気持ちだったのでしょう。

この後、士官として本格的に戦争の渦中に巻き込まれていく手前で物語を終えたところに、この作品が軍賛美でも反戦メッセージでもない、ただこの時代を生きた人間の頑張る姿や人間らしい想いを描くことで、後代の今を生きる私たちに一つの指針を与える、児童文学者としてはきわめて自然な動機によって書かれた作品であるように思います。
ただ、普段は戦記ものなども読まない私にとって、20世紀初頭の軍の有り様はとても興味深いものではありました。きっと、戦記ものが好きな人でも、英雄などでない一兵卒の物語というのは新鮮なのではないでしょうか。また、私の住む場所に近く、コロボックルシリーズの舞台でもあった横須賀周辺の100年近く前の様子も、身近で興味深いものでした。

そして、淡々と語られてはいますが、家族の絆や友情、恋といった感情も奥深くに込められていて、わくわくして読み進んでしまう文体の確かさや読みやすさは、さすがというしかありません。
佐藤さとるは私の父より2つ歳上ですので、まさに私にとっては祖父世代の物語です。2代前の人は、こんな生活をしていたのかと思うと、隔世の感を覚えますが、すでに私の世代も今の若者からすれば昔を生きてきた人なのでしょうね。


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「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと消えない絆〜」三上 延(メディアワークス文庫)6144v2w-M9L._SX230_.jpg

地元小説の3巻め、大船を中心に、戸塚方面まで舞台が広がりました。生まれてからずっと戸塚区民だった私にとっては、いま住んでいる大船以上に馴染み深い街ですが、再開発できれいに生まれ変わってからはすっかりご無沙汰です。あのごちゃごちゃしていた商店街へ、ノスタルジー。だから、大船の商店街はなくなってほしくないのですが。
あとは本郷台、港南台、高野、辻堂と、知っている街が次々に出てくる楽しさがあるので、やはりブログで聖地巡礼記事を書いておかないと、と思っています。春にだいたい取材は終えているので、もう一度読み返して検証して…いましばらくお待ちください。

さて、本屋大賞も取りベストセラーとなっているので、作者にも余裕が出てきたのでしょう。既刊2冊よりも章立ての少ない3話構成で、じっくりと人の心を掘り下げていくことができた感じがします。
栞子さんと大輔君の絆も確実に深まって、関係はあまり進展しないですがもうお互いに離れられないような間柄ですね。ただ、普段から仕事を通じて距離が近すぎるせいか、胸がいっぱいになるような恋心とはちょっと違うような気はします。そう、切なさみたいな感じが足りないのは、まだそこまでではないのか、描き切れていないだけなのか、作者の意図かわかりませんが、次あたり、もう少し出てくると良いなと思います。

前巻までに出てきた人たちが、再び登場するのも良い感じです。顔見せではなく、しっかりストーリーに絡んでくるのが、作者の手腕という気がします。自分が生み出したキャラクターを大切にする作家は、好感度が高いです。そして、登場しないのにすっかりラスボス的な存在感を出している、栞子さんの母親が不気味さを醸してきました。
新しく登場した港南台の古本屋と辻堂の古本屋も、まさしく古本屋らしい頑固な個性が出ていて魅力的。古本屋の主人って、けっこう怖い感じがするんですが(新古書店の若いスタッフとは違って)、最近はそんな店も少なくなってきましたか。大船にも5〜6軒あったのが、どんどんなくなっていき、ブックオフができてからほぼ殲滅されました。1軒復活したのが、本巻にも出てきた柏尾川沿いの古本屋の場所のイメージでしょうか。

本作に登場する本について、3話目の宮沢賢治「春と修羅」は、先日読んだ「宮沢賢治、ジャズに出会う」で出版当時の様子など知ることができていたので、より興味深く物語に入り込めました。2冊目の本探しは、あれしかないでしょう、と思いながらも栞子さんも大輔君もわからないというのが、え、世間ってそんなもんなの?と。1冊目「タンポポ娘」はSF方面に疎いので知りませんでしたが、その本よりも冒頭に出てきた西谷祥子のマンガの方が懐かしくて反応してしまいました。
いずれにしても、古本をストーリーに使っていくのがうまいので、引き込まれます。私にも手放すことのできない本がたくさんありますが、そんな本を1冊ずつ取り上げれば、ひとつずつの物語が書けるのかもしれません。本は、それだけ人間と密接なものになるのでしょう。まぁ、そうしたものは本だけでもありませんか。

4巻も冬には出そうですし、栞子母さんもますます気になる展開、その正体は悪人なのか、破綻者か?それとももしかして…などと想像をめぐらせながら、先を楽しみに待ちたいと思います。


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「宮沢賢治、ジャズに出会う」奥成 達(白水社)51KYe6NZp1L._SX230_.jpg

宮沢賢治が「ジャズ」という言葉をタイトルにした、ジャズのようにスイング感のある詩を残していた、というところから、日本におけるジャズがどのように始まり、世の中に受け入れられていったかを、数々の文献を引きながら考察した「日本ジャズ前史」という内容の本です。
タイトルに宮沢賢治と付けたせいか、かなり無理矢理に賢治とジャズを結びつけようとするので、読んでいても苦しさを感じたりもしましたが、1800年代末から1900年代初頭の日本の風俗を知ることができたのは、大変に興味深いものでした。
結局のところ、賢治がどこでどんなジャズに出会ったのかは、明らかになっていないのですが、でもアメリカのジャズ自体がまだ黎明期であり、それが海を渡って日本に来ていたというのは、想像するだけで楽しくなります。そんなことを知った興奮が、ジャズ評論家である著者を突き動かしたのでしょう。
古いスタンダードジャズと言えば、ちょっと退屈でBGM的な扱いになってるかもしれませんが(私の中ではそんな感じで)、当時、その新しいリズムや即興性は、いま私が板橋文夫の演奏を聴くように、とてつもなく刺激に満ちたものだったに違いありません。ましてや、長い鎖国が解けてから半世紀ほどしか経っていない日本で、西洋楽器自体が珍しい時代ですから。
しかし、100年も前のことであっても、実は現代とそっくりな風景が描かれていることに驚きます。モボ・モガのスタイル、カフェーの文化、浅草のショービジネスなど、その本質はいまと全然変わっていないようです。テクノロジーばかり急速に発達しましたが、人間が進んだわけではないのだと。

宮沢賢治のドラマを期待して読むと残念に思われるでしょうが、いかに賢治が時代の先端を行っていた表現者だったかということは知ることができましたし、いろいろと視野の広がる本でした。

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「きみを守るためにぼくは夢をみる(3)」白倉由美(星海社文庫)
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2巻からあまり間を置かず、3巻めの発刊となりました。
白倉由美の作品には常に死の気配が色濃くつきまとっていますが、先日自分の母を亡くし葬式を済ませたばかりで読むこととなり、いつも以上に哀しみの念を痛切に感じてしまいました。

2巻の最後で唐突に思わぬ行動に出た主人公・大江朔でしたが、大切なものを手放し喪って、迷宮に踏み入ってしまったような感じです。その迷宮は思春期の象徴のようでもあり、けれど誰にでも訪れるような青春の苦悩とは異なる、重い責任感と深い痛酷さと甘美な幻想を伴った彼だけの世界として現れてきます。

各巻でヒロインの少女たちがミステリアスな存在感を魅せながら朔に関わってきますが、この巻で登場してきたまだ小学生の空音は、まさに白倉由美ならではの残酷なまでの無垢さを湛えた美少女。全体のヒロイン砂緒も、前巻のヒロイン雨花も登場してきますが、設定自体が何重にも特殊なので、誰も太刀打ちできないほど朔を自分のものにしてしまいます。これはツンデレとかヤンデレとかの萌え属性とは異質な、毒や麻薬のように蝕まれかねない危険な存在でありましょう。
青臭いほどに真面目な朔が、この先3人のヒロインズに対してどんな責任感をもって当たっていこうとするのか、先を予想できない‥‥。雨花はもう出番終わりかもしれませんが、空音とは簡単に縁を切ることはできないでしょうから、果たしてどう結末を付けることができるのだろう?というところで、物語はまた次の巻へと続いていくのでした。
親友の塔太もヒロインズかと思っていたのですが、そっちの展開はなく彼女ができたので一安心でした。その後に大変なことになってしまいますが‥‥このくらい書いてもネタバレになってしまうのかな。

ジャンルに縛られることには意味がないけれど、1巻で児童文学、2巻で青春文学、3巻では幻想文学的にもなってきて、この先どこに向かってしまうのか。白倉由美の作品は漫画家時代からずっと読んできただけに、ちょっとした怖さを感じながらも、大いに期待し4巻を楽しみにしております。

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長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
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