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「撲撲少年」仁木英之(角川書店)bokubokushonen_.jpg

数多く読んできた仁木作品の中でも、素直に面白かった作品です。「撲撲」ってタイトルが、「僕僕先生」シリーズをミスリードさせる釣りじゃない?と思わせますが、しっかり中身に合っています。撲るより組み系じゃん、とか、二十歳超えてるのに少年なの、とかのツッコミどころは置いといて…。
痛さ・苦しさがよく伝わる格闘技のテクニカルな描写と、それにのめりこんでいく人物の心情描写、それをまとめる時間軸を持った物語がバランスよく書かれていて面白さになっています。長編の多い作者なので、つづく、とならないか心配しましたが…しっかり1巻にまとめ上げられていました。

描かれているのは総合格闘技、ある意味で一般人にとっては理解しにくい、現代物であって歴史物にも通ずるような異世界かもしれません。私にとっては、生で見に行ってたUWF、初期の修斗(当時はシューティング)から、パンクラスやリングス、テレビ放映が楽しみだったプライドやヒーローズと追いかけてきただけに、また余興とはいえ強い人間と闘った経験もあるだけに、細かいところまで深く共感できる物語となっていました。そして、現在の挌闘技界の状況がよくわかるのも興味深いところです。
総合格闘技作品といえば、刊行中のマンガ「オールラウンダー廻」も競技をリアルに追求していて、本作と似ている部分も多いですが、撲撲のドロドロとした人間感情が渦巻くドラマは、昔のボクシング漫画的と思えます。スポーツ主題の作品を読むと思うのですが、実のところは勝敗に向けてエゴとエゴがぶつかり合う、あまり爽やかなものではない、のかもしれません。

格闘技の要素を取り去ってみたならば、岐路に立つ主人公と鬱屈した幼なじみの暗い話ですが、主人公は挫折しているようでいながらかなり恵まれた条件が与えられていて、普通の人といいながら体力や才能もそれなりにあって、ヒロインは美しくやることに理解があって、ラストの展開で主人公が逃げ出すなんてあり得ないだろ、と思ったりもしますが、そこが総合格闘技という特殊なワンダーランドにかかると、なんとなく収まってしまう気がするので不思議です。
爽やかな、とは言い難いですが、最後にはすっきりする青春小説とは言えるでしょう。格闘家だけでなく、病院から出られないアルピニストとか、カレー屋のおばちゃんたちの魅力も大きかったと思います。

作者が空手をやっていたことは知ってましたが、本作を書くにあたってどれだけ総合格闘技を取材し、実地体験したかも伺い知ることができます。かつてリングスなどでの活躍を見ていた(そして作中人物のモデルにもなっている)高阪剛が帯で推薦しているように、なかなか他にないような格闘技小説でした。

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