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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「水平線のぼくら 天使のジャンパー」仁木英之(角川春樹事務所)
 
「撲撲少年」が、仁木さんの青春スポーツ小説・第1段とすれば、これが第2段という位置づけになりましょうか。前作が総合格闘技、本作がノルディックスキーと、すごくマイナーではないけれどメジャーとはいえないところをついてきて、競技への興味もわく分、物語がより興味深く読めるようになります。川西蘭の自転車小説とも似た感じを持ちました。

舞台の奄美が、種子島と沖縄本島の中間にあるということもはじめて認識したくらいな私、その風土や社会や問題、そこに生まれ育ち暮らすことの想いを底にして、その地に違和感のある競技を持ってきた作品には、強く惹かれるものがありました。沖縄どころか近くの海から見える伊豆大島にすら行ったことがないので、離島への憧れもあり胸が騒ぐのです。

ストーリーも熱血あり恋情あり不思議さありで面白く読み進めました。都会の高校生たちの話だと、こんなに純粋にはならないでしょうから、ここでも舞台設定が生きています。最後の方になって、ヒロインの存在がどういうものなのか、書ききれていない感じでよく理解できない部分もありましたが、ツンデレ系美少女の魅力は大きいものでした。心に残る1冊という感じです。

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「盤上に散る」塩田武士(講談社)

プロ棋士を描いた「盤上のアルファ」から登場人物などが繋がる、将棋の真剣師にまつわる話。なので併せて読んだ方がよくわかるのですが、プロ棋士の厳しい勝負の世界を描いた前作と、何人もの生き様がミステリアスに明かされていく本作ではちょっとジャンルが違い、読感も異なります。私はどちらもすごく楽しんで読めたので問題ありませんでしたが。

作者の本で初めて読んだ「女神のタクト」のヒロインほどではありませんが、本作の主人公もアラフォー独身の姉御肌で酒が入ると暴力的になるなど、イメージ的に共通点がありました。そんなタイプが好きなわけではありませんが、キャラが強いのは物語にとっては魅力です。冒頭、母を亡くしたばかりの彼女からは思いもよらない感じでしたが、進むほどにどんどん生き生きとしていきました。
相棒のチンピラ君も、人の良さや意外と小心者のところが愛すべき人物。その他、次々と個性の強い人たちが登場し良い具合に絡み合って、知りたい真相へと近づいていく構成が良くできていて満足度の高い作品となっています。ついでに、関西が舞台だから良いのかも、これが東京の話だったらもっと息苦しいものになってしまいそうに思います。
真剣師という賭博将棋の世界に立ち入りすぎず、駒づくり職人のこととか、将棋が身近にある人たちとか、将棋文化への愛に満ちているのも、コテコテなのにさわやかな印象を与えてくれます。ソフトやネットでいつでも対戦できる世の中ですが、コンピューターの中の1ゲームにしてしまってはいけないのですね。

さて、最近の小説を読んでいてよく思うことですが、私と同年代の人物が登場してきたとき、色褪せたモノクロ写真のような昔の時代を生きてきた人として描かれるのに、軽いショックを受けます。本作ではヤクザな刑事がそうです。確かに自分の子供の頃を考えれば、ここまで貧乏ではなかったにしろ、街も人も自然も今のように小綺麗ではなかったと思い出しますが、生命力にはあふれていたかもしれません。
今ここで何故か出合った、いくつもの世代の人物の過去が交錯していくのも、一つの深い魅力になっています。

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「聖夜」佐藤多佳子(文春文庫)

第二音楽室シリーズの2冊目、前巻は中短編4作でしたが、こちらは1冊1作の読み応えある作品でした。高校のオルガン部が舞台、主人公も男子となって、同じシリーズには思えない感じでしたが、音楽を中心にさまざまな人間関係が描かれるのは同様です。
牧師の子、キリスト教の学校、礼拝堂、パイプオルガン。この年頃がいちばん、自分自身について知ろうとする中で信仰というようなことにも思いを巡らせると思われます、主人公のような家庭環境ならばさらなる葛藤が大きいのも当然でしょう。高校三年生のクリスマスということで、数ヶ月後には大学生となってまずはひとつ大人の世界に入る主人公の成長物語として、とても納得のいく作品になっていました。

家人が習っているので我が家には電子オルガンがあり弾くことができますし、パイプオルガンのコンサートも何度か聴いたことがありますので(作中舞台モデルの青学礼拝堂でも聞きました)、この特殊な楽器についてはある程度の知識はありますが、それでもいろいろと発見させられました。作者もオルガニストに聞きながらでしょうが、音楽描写の的確さもさすがと思います。
本作が男子を主人公にしたことで、女性作家ではありますが男子目線で見た女の子たちがかわいく魅力的でした。といっても、ラノベ的なアイコン化にはならず、天野も青木も意志の強い人間性が感じられるのがとても良かった。

ところで、このシリーズには作中の年が記されていて、本作の主人公はちょうど私と同じ歳ということなのでした。たしかに、あの頃の匂いが満ちています。こずかいを持ってレコード屋に行って新しい音楽と出会う喜び。鞄に入れて簡単に持って帰れるCDとはちょっと違う感覚です。FM放送をカセットテープに録音しては繰り返し聴いていた、あの頃。
まだ、大がかりなイルミネーションなどなくて、ツリーだけが電球を巻かれ静かに光を点滅させていた、神聖なクリスマスの風景。そう、あの頃の夜は街中でも今よりずっと暗くて、盛り場だってもっと猥雑で、私たちにとっての世界の在り様は不可解きわまりなかったと思います。
そんな気分を思い出させてくれたのも嬉しいですが、きっと今の子の心にも深く刻まれる作品であると思います。

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「まほろばの王たち」仁木英之(講談社)

日本の大化の改新後を舞台にした伝奇小説。歴史で学んだ記憶ははるか彼方ですが、知られた人物が登場しつつ、朝廷側でなく追いやられる山の民や神の方から描かれた物語は、現代の諸問題をも想起させる読み応えのあるものでした。

日本の美しさを賛美しつつ、でも歪んだところも多いこの島国の文化・思想ということに気づかされます。そうした歴史の原点として、この時代を選んだところが面白いと思いましたし、考えさせられました。本当の純粋な愛国心って、こういうことなんだよと、問いかけているように思います。

これまでの作品での積み重ねも活きてきているのでしょう。壮大な中国史の中での英雄や神仙の世界、ギリシャの荒ぶる神々、日本の陰に生きる人たちや信仰心、あの世とこの世の狭間、格闘家の魂、などが、日本人なら誰でも知っている、大化の改新という現代に通じる日本の体制の礎となったようなできごとを背景にして様々に展開され、ダイナミックなエンタテイメントさをも持つ物語となっていました。

少女が主人公というのも仁木作品には珍しく、しかしいつでもキャラクター付けが生き生きとしている作者でもあり、ストーリー全体がより魅力的になっていたかと思います。権力を持つ者、異能力を持つ者、幼いけれど才ある少年・少女、人間を超える個性的な神々などとの関わりの中で、奥には恋心なども秘めながら、地味に活躍するところが良い感じでした。

大きな物語だけれど単巻完結なので、仁木作品初心者にもお勧めしやすい一冊と思います。

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「花咲家の人々」村山早妃(徳間文庫)

作者の本は家人が好きでたくさん揃っており、以前から薦められていたのですが、私が読むのはこれがはじめてとなります。
植物と心を通わせて、動かす力を持つ家族の話。これくらいならばネタバレにならないでしょうか。そんな設定よりも、祖父、父、長女、次女、末っ子の男の子と、それぞれが体験し感じ想うことが大切に描かれた、不思議だけれど、胸に染み入るような物語でした。

次女のリラ子がいちばん存在感がありましたが、女子高生なのに媚とか萌が感じられない、なんともサッパリと気持ちよい少女(という言葉も似つかわしくない)です。ついでに理論派の彼女が中心にいることで、他の人たちの少し不明瞭な想いや行動も収まりがつくようにできているようです。
ラジオや怪盗や子猫やクリスマスといったイメージが、物語を鮮やかに彩っています。どこかレトロな商店街が懐かしさを感じさせ、植物園も出てきて、私が植物園の近くに住んでいるだけにイメージが大きくふくらみました。
キャラも生きていてきっと続編も書かれるのでしょうが、4編の想いがラストでつながり、一冊として見事に纏まっていますので、読了感はしっかりしたものでした。

私には児童文学らしく丁寧な文体が、ちょっと読みにくい感じではありました。読み進むうちに慣れましたが、リズム感が合わなかったのでしょう。流して読むことができなかった分、言葉の一つ一つが頭に入ってきていたような気もします。やはり丁寧に書かれていると思います。

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長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
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