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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「聖夜」佐藤多佳子(文春文庫)

第二音楽室シリーズの2冊目、前巻は中短編4作でしたが、こちらは1冊1作の読み応えある作品でした。高校のオルガン部が舞台、主人公も男子となって、同じシリーズには思えない感じでしたが、音楽を中心にさまざまな人間関係が描かれるのは同様です。
牧師の子、キリスト教の学校、礼拝堂、パイプオルガン。この年頃がいちばん、自分自身について知ろうとする中で信仰というようなことにも思いを巡らせると思われます、主人公のような家庭環境ならばさらなる葛藤が大きいのも当然でしょう。高校三年生のクリスマスということで、数ヶ月後には大学生となってまずはひとつ大人の世界に入る主人公の成長物語として、とても納得のいく作品になっていました。

家人が習っているので我が家には電子オルガンがあり弾くことができますし、パイプオルガンのコンサートも何度か聴いたことがありますので(作中舞台モデルの青学礼拝堂でも聞きました)、この特殊な楽器についてはある程度の知識はありますが、それでもいろいろと発見させられました。作者もオルガニストに聞きながらでしょうが、音楽描写の的確さもさすがと思います。
本作が男子を主人公にしたことで、女性作家ではありますが男子目線で見た女の子たちがかわいく魅力的でした。といっても、ラノベ的なアイコン化にはならず、天野も青木も意志の強い人間性が感じられるのがとても良かった。

ところで、このシリーズには作中の年が記されていて、本作の主人公はちょうど私と同じ歳ということなのでした。たしかに、あの頃の匂いが満ちています。こずかいを持ってレコード屋に行って新しい音楽と出会う喜び。鞄に入れて簡単に持って帰れるCDとはちょっと違う感覚です。FM放送をカセットテープに録音しては繰り返し聴いていた、あの頃。
まだ、大がかりなイルミネーションなどなくて、ツリーだけが電球を巻かれ静かに光を点滅させていた、神聖なクリスマスの風景。そう、あの頃の夜は街中でも今よりずっと暗くて、盛り場だってもっと猥雑で、私たちにとっての世界の在り様は不可解きわまりなかったと思います。
そんな気分を思い出させてくれたのも嬉しいですが、きっと今の子の心にも深く刻まれる作品であると思います。

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