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つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「ツバキ文具店」小川糸(幻冬舎)

鎌倉だけを舞台にした静かな小説。これを読んで鎌倉に住みたいと憧れる人が増えるだろうなと思います。私もその端っこに住んでいますが、こちらはディープ鎌倉です。知っている場所やお店が時々出てくるのが楽しく、独特の雰囲気を持った魅力的な登場人物たちもこの街ならではの風情をよく表していました。この街ならこんな人たちがいて当然、というのが地元民的な認識でもあります。

大きな事件は起こらなくても、人の心の繊細な動きが描かれるので、とても面白く沁み透ってくる物語でした。長い年月をかけて作られ変化する人と人の関係、それはすべてが物語となる資質を持っているのだと、そこにちょっとした特別な感情が加われば、他人の心を動かすだけのドラマになるのだと。それは、作者の情景を書き表す筆致が見事だから、浮かび上がるものだと思います。小川糸さんの作品は初めて読んだのですが、巧いなあと感嘆しました。

人の代わりに手紙を書く代書屋を生業にする主人公、その手紙を再現して掲載されているという本の企画も素晴らしく、気持ちの温もりまでが伝わってくるようでした。手紙画像が掲載されるページの前でピッタリ本文の行数を整えているのが、なかなかすごいことです。手紙のマナーについて語られるノウハウも、意外に知らないことが多くてためになりました。

私も昔は手紙をよく書いていましたが、今はほとんど機会がなくなりました。それは一つの生活に密着した文化だったと思いますが、今の世で廃れることは仕方ないと思います。でも絶滅することはなく、本当に心を伝えたい大切なタイミングでは使っていきたい、そんな魅力を気付かせてくれる作品でありました。

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「羊と鋼の森」宮下奈都(文藝春秋)

今年の本屋大賞受賞作ということで知りましたが、期待以上に面白い作品でした。若い駆け出しのピアノ調律師がその仕事を通じて人と、音楽と、自分自信と向き合っていく姿が綴られていきます。山の中で育った地味で実直な主人公を、決して派手な事件や情熱的な恋などもなく静かに描いているのに、とても引き込まれてしまいました。
本屋大賞は、ときどきこうしたおとなしいけれど味わいある秀作を選んでくれるので、本屋さんもさすがにプロだなと思わされます。百田の本を選んでしまうという愚挙もありましたが…。

昔私の家でも何度か来てもらったことのある調律師さん、その繊細な技能への興味もあります。やさしさの感じられる文体もありましょう。双子の女子高生が魅力的というのはもちろん。でも、一筋に仕事に打ち込むことがそのまま、小説となっていることが素晴らしくて、成長していく彼の姿を作中の先輩たちと同じような視点で見守ってしまうのです。

読む前は不思議なタイトルと思いましたが、羊と鋼と森の象徴するいろいろが作品世界に奥深さをつくり出しているのだと感じます。きっと、私の心に残る1作となっていくことでしょう。そして、コンサートを聴きに行ったとき、休憩時間中にピアノを調整する調律師さんの姿に目が引きつけられるようになりました。最近、立て続けにピアノのコンサートに行っているから…めぐり合わせというものでしょうか。

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「江ノ島西浦写真館」三上延(光文社)

「ビブリア古書堂」の作者による、江ノ島を舞台にした小説。ビブリオが古本から身近な謎解きをしていくのに対し、こちらは古い写真を手がかりに謎を解いていくノスタルジックなミステリーという同系列の作品でした。登場人物のキャラクター配置も似た感じです。でも、内陸の鎌倉(大船)と海上の江ノ島、古書と写真、男主人公と女主人公、という違いのせいか、閉鎖的な重苦しさは少し薄く読みやすい感がありました。

江ノ島は私にとって地元ですので、子供の頃から何度も訪れていますが、橋を渡って仲見世を通って階段上って、神社や植物園に立ち寄って、階段下りて稚児ヶ淵まで行って、また戻ってくるだけですので(それでかなり疲れます)、そこからはずれた路地裏や、ヨットハーバーの方などには行ったことがなかったと気付きました。

気付いたからには行ってみなくては、と。物語の舞台である廃写真館があるのは路地裏となっていますので、地図を見てみれば、確かに行ったことのない場所があります。都心に近いながら橋1本で相模湾に浮かぶ孤島、世の中から隠れ住むには良い場所なのだと思います。隠されたものを暴き出すという話にうってつけでした。

ヒロインは少し性格に難のある20台の娘さんで、読みながら特に愛おしさを感じることもなかったですが、写真家の観察眼で物事を明らかにしていく様は魅力的でした。そういえば、あまり魅力的な登場人物はいなかったような…ビブリオの栞子さんのお母さんのように、写真館のお祖母さんもなんか嫌な感じでしたし…それでも面白かったのは、純粋にストーリーの力でしょう。

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「音楽の在りて」萩尾望都(イースト・プレス)

萩尾先生も最近は小説を書かれるのか、と思ったら70年代後半に奇想天外などに発表された作品集でした。70年代後半から80年代、24年組と呼ばれる作家たちが高い評価を得てなおも続々と意欲作を描き、その次の世代の作家たちがさらに独創的な世界を広げていた、まさに少女マンガ全盛期です。私もずいぶんと読みまくった頃です。

萩尾望都年代記でいえば、「トーマ」や「ポー」といった耽美な世界から、「レッドアイ」「銀の三角」などのSF作品が多くなっていた頃と思われますが、まさにそんな若々しいアイデアと感性にあふれた、SF中心の小説集でした。短編が11作と長編が1作、短編漫画が1作収録されています。作者による[あとがき]があると、もっと良かったのですが。

物語が面白いのは当然として、文章も瑞々しく萩尾望都の絵柄で情景が思い浮かびます。漫画はデフォルメしていく表現、小説は書き重ねていく表現だと私は考えていますが、その違いを効果的に使いながら、漫画と同レベルの作品に完成しているところが素晴らしく…やはり、萩尾望都は手塚治虫を最初に追い越した天才漫画家だとの自説を強くしました。

最後の長編「美しき神の伝え」がどうしても印象に強く残ります。人間の自我と宗教と哲学の本質を見つめた、深大な作品。美しく純粋で、哀しく残酷な物語でした。ほかの作品もそれぞれ個性的で面白いものばかりでしたが、この1作は、作者ならではの世界観にあふれていたと思うのでした。

「残酷な神が支配する」の初期で挫折して以来、もうずいぶんと新作漫画を読んでいませんが、いまだに創作意欲の衰えない萩尾先生の作品に再び接する好機と思っています。

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「ドファララ門」山下洋輔(晶文社)

ジャズピアニスト山下洋輔の父方の祖父の足跡をたどった「ドバラダ門」を読んだのは、もう20年以上前のことだったでしょうか。山下さんのエッセイは即興演奏的に面白くてよく読むのですが、長編小説もさらに面白いと思ったものでした。本作は、そんな洋輔さんの母方の系譜をたどった内容で、前作(読んだときの記憶も曖昧ですが)よりは小説っぽくない印象なれど、多岐多彩なプレイヤーが登場する大セッションという楽しさがありました。

洋輔氏はラジカルな演奏をする割に、品の良い紳士という雰囲気の人ですが、なるほど、名家のお坊ちゃまだったのだと納得させられました。ジャズマンとしては(特にフリージャズでは)、そうしたイメージがプラスにはならないと思うのですけれど、最前線で走り続けて七十を越えた今だから気にせず書けたことなのでしょう。そして、私も両親を亡くした今だから思うこと、自分のルーツである「家」のことをもっと聞いておけば良かったと、そんな想いが本作執筆の動機にもあったのではないかと思うのでした。

いろいろな分野で、特に芸術方面で才気あふれる人たちを親戚に持つ洋輔氏の血筋とともに、ジャズマンとしての自伝でもあり、聴き知っているミュージシャンたちがたくさん登場するのも、エッセイに書かれるのとは違って一段と面白く。起承転結の脈絡あるストーリーではなくいろんな方向にとっちらかっていても、人生とか旅とかって、そんなものでありましょう。

意外であったのは、洋輔氏はクラシックピアノを習っていなかったということです。音大出ということもあり、あの色彩感豊かな音はクラシック音楽の素養の上に成り立っているのだろうと勝手に思っていたので、衝撃的でした。世界もジャンルも超えて活躍するピアノ弾きになったのは、血とともに受け継がれてきた才能なのか、子どもの頃から好きだったからなのか…なんでも面白がる需要力と自由に文章も書いてしまう創造力、そんな人間性もあってこそと思わされました。

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長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
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