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「虚人の星」島田雅彦(講談社)を読みました。

島田作品を読むのは久しぶりになりますが、今、書かざるを得なかった切迫した小説なのだろうと思います。私もこのご時世で、同世代でもある作者の強い想いは読まざるを得ませんでした。

章ごと交互に一人称で語る主人公の一人は、誰がどう考えても現首相の安倍チャンがモデルですが、実際の人物よりは好ましい人物として描かれています。心の病気だから仕方ないんだと。もう一人は子供の頃から不遇を歩んできて七重人格となりスパイになった青年です。
二人の語りで、今の世界情勢、米国と中国の間にある日本の立ち位置というのが明確にされます。なぜ安倍をはじめ右翼連中が戦争体勢を整えようとしたいのか、ふつうに平和を願う人間には理解し難いことを、納得のいくように解説していて、作者の力量発揮というところでしょう。
自分とは違う主張に対しても考えを巡らせることができるのは、想像力のある人間。他人の意見に耳を貸すことすらできないのは、妄想にとらわれる人間です。

物語はリアルな現代を背景にしていますが、まったく異なる二人の人間の人生ドラマが描かれ、運命が二人を引き合わせていく展開は小説として面白いものです。今の世でなければ、こんな奴が首相になんかなれるわけないと、笑いながら楽しめるフィクションになるのでしょうが…。時に現実は常識を超越して笑えないコメディと化してしまいます。
ラストは、本当にこんなことになれば良いなぁという結末になりますが、現実の首相の心に平和を求める人間性などあり得ない話ですので、ちょっと空しさを感じてしまいました。
そんな今や多くの人に嫌われ憎まれている安倍チャンの人格を揶揄しながらも、博愛をもって描いているところに違和感がありますが、いやそれこそが島田雅彦なりの大きな皮肉を込めたメッセージ。しかし聞く耳持たぬ当人には伝わらないでしょうね。

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