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「さよならドビュッシー」中山七里(宝島社)
※読書感想についいては、なるべくネタばれを避けるようにしています。
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続編であった「おやすみラフマニノフ」が、ミステリーよりも音楽小説としての創造的な面白さにあふれていたのに対し、本作は苛酷なまでの主人公である少女の境遇を描いたミステリーに付随しての音楽、という印象です。『このミステリーがすごい!』大賞受賞作ということですが、ふだんミステリーというジャンルに馴染みが薄い私としては、前後逆順で読んで良かったと思っております。

もちろんドビュッシーも、音楽に対する熱い愛情と深い造詣にあふれていて、音楽家を目指す者の姿勢のこと、ピアノの奏法のこと、コンクールのことなど、門外漢からすれば興味深いこと多く、満足度の高いものでした。それ以上に、ラフマニノフにもありましたが医学的なことや事件性の方が前面に出ていたということです。ミステリー作品として高い評価を受けた理由がわかります。
いや、作者自身は楽器演奏などしない方らしいのですが、それでも好きだから単に知識でなく感覚として理解できる、ということなのではないかと想像するところです。または、医学への関心の高さから、情報収集や分析力に優れた人なのか…どうあれ、作品が素晴らしければ良いわけですが。
作者の素晴らしいところは、ラストに向かって音楽で盛り上げ、事件の謎もしっかりと(動機となった人の感情も含め)納得いくように丸め込んでいく、綿密に練られたバランスの良さです。投稿作であったドビュッシーと、それが評価を得てからのラフマニノフで作品の志向性を変化させたところにも、作家としての才を感じます。

主人公の少女には、生き続けること、自我を保ち続けること、音楽を続けることへの極限のできごとが次々と襲ってきますが、それに立ち向かう少女の強さ、立ち向かうしかないのだけれど哀しみなどの感情を抱きながらも逃げることのない姿には、痛ましさを感じるほどに感動も大きく。その中で一人の音楽家が誕生していく過程があり、楽曲が本当に聴こえるように言葉で描かれ音に包まれるほどに感動は深く。
これがライトノベルであれば、「ピアニスト探偵・岬陽一の事件簿」みたいなサブタイトルが付きそうですが、そんなにエンタテイメント寄りでなく、しっかりと人間の人生を描いているのが重厚な読み応えです。
リアリティがないという読者感想もネットでいくつか見受けましたが、人間の感情の複雑さを考えれば、それぞれの登場人物たちの行動の動機も十分に受け入れられるものでしたし、時に事実は小説よりも奇なりという言葉のとおり、偶然の重なりや奇跡のようなことも現実には多いのです。小説とはいかにリアルを追求してもファンタジーである、しかし読んだ人によってはリアルに変換される、そうした面白さの中で読むべきものだと私は思っています。まぁ、岬陽一の完璧すぎるところがリアリティないなとは思えますが。


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