つばめろま〜なから、なにかを知りたい貴方へ。
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「ブラバン」津原 泰水(バジリコ)
予備知識もないはじめての作家、高校のブラバンが舞台ということで面白そうだと思って読んでみると、まったく予想と違う方向の世界。極端に評価が分かれる作品でしょうが、私にとっては非常に面白い小説でした。
ブラバンといえば、音楽やるのに体育会系で明るいイメージ、そんな感じのエンタテイメント小説を期待するなら、大きく裏切られます。これは、正反対のイメージを持つ純文学と思った方がよいでしょう。
あとから調べれば作者はホラーを書く人だそうで、そんな不穏な雰囲気だけを纏いながら、今に半ば絶望しつつ、ニヒルに、シニカルに過去を語っていく。青春の爽やかさでなく、若さの退廃的な部分を際立たせていて独特な感じでした。
舞台が東京のようにおシャレな大都市ではなく、かといって長閑な田舎でもない、地方都市・広島だというのも味になっています。広島弁でのしゃべりが元から甘美な世界を許さないもののようで、弦バス奏者らしい主人公の性格もありますが、心の熱さすらもクールに客観視されたドラマです。
主にクラシックの曲を演るブラバンでのできごとを中心に描きながら、まさしく70〜80年代前半青春世代の心をつかんでいたロックやジャズにも話が及ぶので、音楽ものとしても十分に面白い。ですが、この作品のテーマは人物群像です。人数の多い吹奏楽部という設定の中で、ほとんどすべての人物の過去と現在にまで光を当てて行く、光が強いほど影の部分が浮き立っていく。
主人公を含めて多くの人物が、とても幸せとは言えないような人生を送っているのが、ものすごく切ない。でもそのリアルな切なさが、生きることの勇気を与えてくれた気がしたのです。
決して戻ることのできないあの頃への郷愁、しかしそれは美化した憧憬ではなく、さまざまな痛みや悔恨をも伴った過去の体験でしかない。それでも、今の自分が失ってしまったものがあった時代なのです。
物語は、失ったものを取り戻すとまではいかないまでも、それがなんだったかを確認するかのように、今と昔が交差して行きます。いろいろなエピソードが淡々と語られ、そんなに特別な人間やドラマチックなできごとではないのに、引き込まれていくのでした。
さて、読み進んで本のページは残り少なくなってきたのに、あるだろうクライマックスが描けるのか?と不安になりましたが、予想外の実に見事なラストで締めてくれました。全体を通じて淡々とまとまりなく語られていくように見えて、しっかりと構成されているところに作者の力量の高さが感じられ、満足でした。
ここまでのめり込めたのは、私と作者の世代がかぶっているからというのも大きいでしょう。主人公が1年の時の3年の先輩が、私の世代です(年齢ばらしてるな。隠す必要もないですけど)。
私にとっては、高校時代をこんなにも鮮烈に思い出すことができません。部活には入りましたが、中途半端でしたし、今に至る友人というのもいません。だからそこにあるのが決して美しいものではなくても、うらやむべきものとして感じられます。
比べれば私の高校時代はなんとも空虚な時代だったように思えますが、しかしこの頃に夢中で読んだ少女漫画や聴いた音楽などが、今の自分にとっては大きな糧となっていることを思えば、他人の芝生でしかないのだとも気づきます。
若者よ、今を大切に。年寄りよ、過去を大切に。そして、今を、生きる…。
予備知識もないはじめての作家、高校のブラバンが舞台ということで面白そうだと思って読んでみると、まったく予想と違う方向の世界。極端に評価が分かれる作品でしょうが、私にとっては非常に面白い小説でした。
ブラバンといえば、音楽やるのに体育会系で明るいイメージ、そんな感じのエンタテイメント小説を期待するなら、大きく裏切られます。これは、正反対のイメージを持つ純文学と思った方がよいでしょう。
あとから調べれば作者はホラーを書く人だそうで、そんな不穏な雰囲気だけを纏いながら、今に半ば絶望しつつ、ニヒルに、シニカルに過去を語っていく。青春の爽やかさでなく、若さの退廃的な部分を際立たせていて独特な感じでした。
舞台が東京のようにおシャレな大都市ではなく、かといって長閑な田舎でもない、地方都市・広島だというのも味になっています。広島弁でのしゃべりが元から甘美な世界を許さないもののようで、弦バス奏者らしい主人公の性格もありますが、心の熱さすらもクールに客観視されたドラマです。
主にクラシックの曲を演るブラバンでのできごとを中心に描きながら、まさしく70〜80年代前半青春世代の心をつかんでいたロックやジャズにも話が及ぶので、音楽ものとしても十分に面白い。ですが、この作品のテーマは人物群像です。人数の多い吹奏楽部という設定の中で、ほとんどすべての人物の過去と現在にまで光を当てて行く、光が強いほど影の部分が浮き立っていく。
主人公を含めて多くの人物が、とても幸せとは言えないような人生を送っているのが、ものすごく切ない。でもそのリアルな切なさが、生きることの勇気を与えてくれた気がしたのです。
決して戻ることのできないあの頃への郷愁、しかしそれは美化した憧憬ではなく、さまざまな痛みや悔恨をも伴った過去の体験でしかない。それでも、今の自分が失ってしまったものがあった時代なのです。
物語は、失ったものを取り戻すとまではいかないまでも、それがなんだったかを確認するかのように、今と昔が交差して行きます。いろいろなエピソードが淡々と語られ、そんなに特別な人間やドラマチックなできごとではないのに、引き込まれていくのでした。
さて、読み進んで本のページは残り少なくなってきたのに、あるだろうクライマックスが描けるのか?と不安になりましたが、予想外の実に見事なラストで締めてくれました。全体を通じて淡々とまとまりなく語られていくように見えて、しっかりと構成されているところに作者の力量の高さが感じられ、満足でした。
ここまでのめり込めたのは、私と作者の世代がかぶっているからというのも大きいでしょう。主人公が1年の時の3年の先輩が、私の世代です(年齢ばらしてるな。隠す必要もないですけど)。
私にとっては、高校時代をこんなにも鮮烈に思い出すことができません。部活には入りましたが、中途半端でしたし、今に至る友人というのもいません。だからそこにあるのが決して美しいものではなくても、うらやむべきものとして感じられます。
比べれば私の高校時代はなんとも空虚な時代だったように思えますが、しかしこの頃に夢中で読んだ少女漫画や聴いた音楽などが、今の自分にとっては大きな糧となっていることを思えば、他人の芝生でしかないのだとも気づきます。
若者よ、今を大切に。年寄りよ、過去を大切に。そして、今を、生きる…。
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つばめろま〜な
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自己紹介:
長年、同人誌で創作漫画を発表してきましたが、本当は小説が主な表現手段。職業はコピーライターで、趣味は楽器を鳴らすことなど。
下記に作品等アップ中です。よろしくお願いします!
■マンガ作品 COMEE
http://www.comee.jp/userinfo.php?userid=1142
■イラスト作品 pixiv
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