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「世界フリージャズ記」副島輝人(青土社)を読みました。

前著「日本フリージャズ史」の発刊からもう11年経ちますが、またも凄く貴重な本を出してくれました。ジャズにとどまらず、音楽、さらには人間の表現や創造といったことの根源に迫る記録本です。
ドイツのメールスやロシアのアルハンゲリスクなど、新しい音楽が創造される現場に自ら足を運び体感し続けてきた筆者の、40年近い活動には敬服いたします。どこぞの、マイルスの音盤だけ聴いていればすべてOKというようなジャズ本とは大違い。ジャズはいつでも新しい創造性の中にあるのだということです。

そして読んでいて意外だったのは、私自身がここに登場するミュージシャンのうち、日本人以外でも結構の人数の生演奏を実際に聴いていたのに気付いたこと。フリージャズはたまにしか聴いてなかったつもりなのに。日本でその機会が持てたのにも副島氏の功績が大きいのだろうと思います。
本書にも何度か登場しますが、ソ連・日本・米国の10人がフリーセッションした歴史的なコンサート「ひらかれた地平」から、20年以上皆勤で毎年聴きに行っている「横濱ジャズプロムナード」、「エアジン」や「新宿ピットイン」といったライヴハウスまで、たとえばセルゲイ・クリョーヒンやペーター・ブロッツマン、姜泰煥、ブッチ・モリスなどの演奏を聴いた時を思い出しながら読むのは楽しいものでした。心残りは、副島氏が尽力していたアルハンゲリスクの初来日ツアー、チケットを買いながらも行けなかったこと…本を読んであらためて残念さがこみ上げてきました。
聴いた当時の自分の記録を読み返してみると、副島氏が凄いと書かれている人の演奏が、必ずしも私にとっては刺さってなかったというのも興味深いところです。それもまたライヴで体験しての感想、当然に感性の違いや音楽的素養のレベル、聴いた場所なども影響してくることでありますので、それこそジャズは先ず生で聴かなければ意味がない、ということです。

やっぱり、創造性豊かな音楽を生で聴きたいという想いが共通しているから、この本がとても興味深く感じられるのだとは思います。けれど、フリージャズは敬遠しているが音楽は好きという人も、この本を読めば興味が湧いてライヴハウスなりに行きたくなると思います。私は、メールスに行きたくなりました。
もちろん、自分が聴いたことのないミュージシャンの方が多いわけですが、文章を読むだけでも興味深い演奏スタイルが書かれていて、聴いてみたくなります。そして今の時代の良いところ、動画サイトで検索すれば映像を見ることができたりします。生で聴くのが一番ですが過去の者や遠い場所のものはどうしようもない、しばらくは本を読み返しながらネット検索して、気に入ればCDを買ったりしていくことになるでしょう。

最後の方には、「日本フリージャズ史」以後の日本の前衛シーンのことが書かれた記事も掲載されていて、今も身近で音楽が進化し続けていることがわるのも良かったです。年に一度行けるかどうかのエアジン恒例国際インプロ祭くらいでしか聴くことがないのですが、もう少し通えたらと思います。ジャズに限らず、凄いものを生で見て感動した記憶は、人生の宝物となりますから。
副島氏はもう80過ぎという御歳ですが、まだまだ新しいものを求める気持ちが変わらないのは素晴らしいことです。何年前になるでしょうか、一度「横濱ジャズプロムナード」のロシア人ステージでこのフェスティバルと出演者について熱く語られている姿をお見かけしました。専門誌などは読むことのない多くの人にも「生きている本当のジャズ」を独自の情熱で広め続けてほしいと思います。

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